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Thursday, March 12, 2020

議員”マスク転売問題”から考える、転売ヤーの利益の源泉 - ITmedia

 静岡県議会の諸田洋之議員が、オークションサイトでマスクを大量出品していたという問題が物議を醸している。同氏は3月9日までに888万円を売り上げたことを告白したが、その行為が「転売」にあたることについては最後まで否定した。これは政府が「マスクの買い占めや転売に罰則を設ける方針」を決定した矢先の出来事で、公の立場にある人物がこれに逆行するような行動をしていた点に批判が集中した。

 現在、同氏は出品こそ取りやめてはいるが、15日のマスク転売違法化の動きもあってか、オークションサイトでは在庫処分的な出品も目立つようになった。仮にマスクの転売が止んでも、今後も規制の手が及んでいない商品が次の転売ターゲットになる可能性がある。道徳観・倫理観からいえば、窮状につけこむような転売は許されない。しかし、なぜ転売は止まないのだろうか。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

市場原理と道徳観の対立

 "転売ヤー”が転売を正当化する論拠は、「需要と供給のバランスが崩れた価格設定となっているため、市場原理に則って価格をさや寄せしているにすぎない」というものである。件の県議も「オークションの出品価格は1円からスタートしている」点や、「原価率は50%程度であり、暴利ではない」という点を強調し、「市場原理に任せた結果、高額になってしまった」という趣旨の主張をしている。

 確かに、この種の主張は道徳的な不快感こそ抱けども、資本主義における市場原理のもとではやむを得ない面があることも否定できない。現実に「市場価格よりも高く購入する者が存在する」という事実もある。他の分野でも、例えば、「一定の料金を払えば並ばずにアトラクションを楽しむことができるチケット」といった、どんな人でも公平に列に並ぶという道徳観を、市場原理で歪(ゆが)めているといえば歪めているような商品も世の中にはありふれている。

 しかし、マスクの製造業者や小売店のほとんどは、価格を上げず、過剰な需要を抑制し、供給量の確保に全力をあげている。そのような事実から考えれば、公共性や倫理観だけでなく、単純に経済合理性で考えても、必ずしも需給バランスの偏りを価格に上乗せすることが正しい戦略というわけではないことが分かる。

 それでは、このような状況下で値上げをするか、供給を確保して価格上昇を抑制するかのいずれが好ましいのだろうか。今回はプロスペクト理論から考えてみよう。

転売は”信頼”を利益に換金しているだけ?

 プロスペクト理論とは、当連載の第8回で取り扱った行動経済学上の意思決定モデルだ。

 今回は「参照点」という概念から、価格の吊(つ)り上げを行わないという意思決定を行った小売事業者の経済合理性をみていきたい。参照点とは、私たちが物事の損得を測る際に基準となる点をいう。例えば、平時におけるマスクの相場が500円であるとすれば、参照点は「500円」となる。

 第8回でも取り上げた通り、プロスペクト理論は人間の「損失回避性」を明らかにしている。人間は、利益と損失の幅が同じでも、損失をより重視するという性質を持ち合わせているのだ。

 これは、プロスペクト理論の「価値関数」というグラフで表現できる。図はマスクを値上げした場合と、値下げした場合に、顧客が感じる価値の動きを表現している。

プロスペクト理論によると、ヒトは同じ値幅でも値上げをより嫌う性質がある オコスモ作成 プロスペクト理論によると、ヒトは同じ値幅でも値上げをより嫌う性質がある

 図において、参照点となる500円から450円にマスクを値下げした場合に顧客が感じる価値を1程度とする。このとき、500円から550円に値上げしたときに顧客が感じる価値の幅は−2程度となる。つまり、50円の値下げよりも50円の値上げの方が強く印象に残ってしまうことがグラフからわかる。

 小売店がマスクを転売ヤーの提唱する”市場原理”に合わせて値上げしなかった背景には、小売価格(参照点)から著しく乖離(かいり)した価格を提示することで、大多数顧客の価値を毀損(きそん)し、信頼低下を招くと判断したからであろう。

 品薄に便乗して過度な値上げを行えば、中長期的にみたマイナス効果は計り知れない。確かに短期的には利益こそ上げられるかもしれないが、「顧客の弱みに付け込んで値上げする会社」という評判がたてば、たちまち市場からの退場を余儀無くされるだろう。これもまた転売ヤーの主張する”市場原理”に基づく結果だ。

 つまり、今回のような転売行動は、需給バランスの偏りに根ざした正当なものだという主張があるが、その実態は消費者の信頼を換金しているにすぎない。”市場原理”という言葉の崇高さとは相反する内容ともいえる。許される/許されないという問題以前に、そんな転売は遅かれ早かれ市場から淘汰(とうた)されることになる。

 現に、今回マスクを高額で売りさばいた諸田氏もこのままでは再選も難しいほど炎上している。他にも、マスク60枚を1万7000円で販売したセブン-イレブンの店舗は、これで得た売り上げをはるかに上回る信用毀損とブランド価値低下を本体に与えたといわざるを得ない。

 ここまで考えると、そもそも市場と道徳を対立構造として認識するのではなく、両軸に根ざした意思決定こそがむしろ社会全体の利益を高めていくといえるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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