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Monday, June 8, 2020

あのタレキンは… 「符丁」の味わい(立川談笑)(NIKKEI STYLE) - Yahoo!ニュース

いやあ、右を見ても左を向いてもどうにも深刻な話ばっかりで、気がふさぐようですな。そこで息抜きのために、今回は落語をお届けします。私の創作落語「符丁(ふちょう)」です。特別に面白いとか刺激的というわけでもありません。わはは。たとえるなら、ぬるま湯みたいな。わずかの間、嫌なことは考えずにぼーっとしませんか。 時代は明治あたりをぼんやりと想定しています。では、どうぞ。

■三河屋の親方は地球外生命体?

ええ、落語でございます。出てまいりますのは、おなじみの大工の八五郎。きょうも仕事の帰りみちに、横町のご隠居さんのところに立ち寄りまして…… 「ご隠居さん、いますか?」 「おや。誰かと思ったら八っつぁんかい」 「今、いいですか?」 「ああ。上がりな、上がりな。仕事帰りかい。どうした?」 「わっはっはあ。驚いちゃった! いえね。あの、隣町に出てる屋台で、『三河屋』っての、知ってます?」 「ああ、あの、屋台の寿司(すし)屋な。あたしゃ行ったことはないけど、結構な評判だ」 「そう、あの店! あっしゃ気づいちゃった!」 「んん? 何が?」 「さっき。仕事終わりにちょいと立ち寄ろうと思ったんですよ。そしたら、先の客が帰ろうってんでしょうね。『ごちそうさん。いくらだい?』って言ったら! 屋台の向こうから大将が、こっちの小僧に向かってピロピロピロ~って大きな声で何か言ったン。そしたらそのピロピロを聞いた小僧が客の耳元で、『えー、30銭で願います』と、こうだ! ええ? 親方と小僧との間じゃあピロピロ言ってるだけで、『30』でも『銭』でもねえんだよ? それが、『ピロピロ』の、『30銭です』たあ、どう考えてもおかしいだろうと。あの三河屋ってぇ寿司屋はね、外国の人だね。ことによるってえと、地球外生命体かもしれねえ」 「バカなことを言うんじゃない。あっはっは。なるほど、そうか。『ピロピロ』が『30銭』ってのが不思議だという話か。違ってたらごめんよ。その『ピロピロ』ってのは、『チョンブリ』とか『ソクバン』とか。そんな響きだったんじゃあ、ないかい?」 「あー!!! そう!そう!そう! それだ『チョンチョンブリブリ、バンバンバン』!」 「ぜんぜん違うね」 「あっはっはー。それだぁ。その謎の言葉の意味が分かるってぇところを見ると、ご隠居さんもやっぱり地球外生命体!?」 「んなわけないだろ。ああ、おまえさん、そりゃあね、あたしの思うところじゃあ、その言葉はお寿司屋さんの方の、『符丁』だよ」 「なんです?」 「お寿司屋さんの、符丁」 「『ふちょう』?」 「そう。仲間内だけにしか通じない、特別な言葉だ。目の前にお客様がいるのに、飲食代とはいえ『現金いくらいくら』とはあからさまに言いづらいもんだよ。だからそのために、わざと、分かりにくい言葉に置き換える。もっとも、言葉遊びみたいなところもあるだろうけどな。まあ、そんなこんなで符丁ってのが生まれたんだ」 「あっそう! じゃあ、あの三河屋の親方は地球外生命体では、」 「ないよ! 当たり前だ」 「じゃあ何じん?」 「見たところニッポン人だろうな」 「あー! そう。へー! なんだか、悔しいね」 「どうして?」 「だってそんな特別の、身内にしか分からない言葉をさ。寿司屋だけが使ってるなんて、面白くねえや」 「いやいや、寿司屋だけなんてことはない。おまえさんがた大工さんでもいくらもあるはずだし、あちこちいろんなご商売で同じように符丁なんてのは、あるもんだよ」 「たとえばどんなのがあります?」 「そうだねえ。……そう、変わったところでは落語の世界にも符丁なんてのはずいぶんとあるもんだ」 「落語? へー、どんなもんです?」 「数字なら、『1、2、3、4、5』というのが、『へー、びき、やま、ささき、かたご』、って具合だ」 「なんです?」 「『へー、びき、やま、ささき、かたご』」 「ぷふふっ。そんなもん、普通に、いち、にい、さん、って言やいいじゃねえですか」 「いやいや。そこは客商売だ。お客様の前で金の話はしづらいだろう。そこはそれ。お客様に分からないように仲間内だけで通じる言葉を使うんだな。『きょうのタロは……』タロってのはお金のことだ」 「それも、符丁?」 「そう、符丁。『きょうのおタロは、どんな具合だい?』とな。で、聞かれた方は『ヤマだよ』。つまり手取りで3円の仕事だと、そんな内緒話でも堂々と人前でできると、そういうわけだ」 「はー。その場で聴いていても客にはサッパリ分からねえと、こういう話ですか。便利なもんだね。それが、『符丁』」 「そう」 「それにしてもご隠居さん、落語家の符丁に詳しいですね」 「ああ。以前、この長屋に落語家で、立川談笑とかなんとか言った。そんなのが住んでいてね。いろいろと教わったもんだ」 「へー」 「落語の符丁はほかにもあってね。『食べる』じゃなくて『のせる』。『ちょいと何か軽くのせてくかい?』なんてね。だから『食べ物』は『のせもの』。大食いは『おおのせ』だ。そう、さっき言ってた寿司。寿司のことを『やすけ』と言うな」 「はー。やすけ?」 「客のことは『キン』。男は『ロセン』で女は『タレ』。顔のことは『とうすけ』というんだ。だから、『あの女性客は美人だね』というのを落語家の符丁で言うと、『あのタレキンは、いいとうすけだ』と、こう、なる」 「うっはっはあ! さっぱり分からねえ」 「分からないから、符丁さ」 「なるほど面白いもんだね。へー、ありやたんした。 また来ます!」 八五郎がご隠居さんの家を出て、自分の長屋へと帰ってまいります。

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June 08, 2020 at 05:15PM
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