撮影/馬場磨貴 (撮影協力/RELIFE STUDIO FUTAKO)
『かぐわしき植物たちの秘密』
最初の緊急事態宣言から早1年が経過したことに、驚いた方も少なくないだろう。私たちの生活が一変したことで、求めるもの・求められるものが日々変化していると感じる。その中で、家の中での時間やマスク生活をなるべく快適に過ごす方法として、「香り」をたのしむ人が増えているように思える。マスク用のアロマスプレーをたくさん見るようになったり、アロマテラピーについて書かれた本の需要が高まっていたり、個人的にもアロマオイルを携帯するようになったからだ。
私が利用している美容室では、シャンプー時に好きなアロマオイルを選び、香りに癒やされながら洗髪してもらえるのだが、「リラックス→ラベンダー」くらいの乏しい知識しかなかったため、今回この本を読んで驚いた。こんなにもたくさんの植物の香りに効能があり、それらは医学的研究や疫学的調査で科学的に裏付けがされているのだ。
「三大芳香花」の一つであるキンモクセイ。なんと、ダイエット効果があるという。初秋に漂うあの甘い香りが食欲を促す物質を抑え、結果として体重や体脂肪が減るかもしれないということだ。トイレの芳香剤にしている場合ではなかった。さらに、脂肪燃焼効果があるとされる香り、グレープフルーツ。ほかにも女性にしか現れない、うれしい効能がある。気になる方は、ぜひとも読んでいただきたい。
香りの効能のみならず、その植物の原産地や花言葉、名前の由来なども解説されており、興味深く読むことができる。たとえば、鶏肉を焼く時によく一緒に用いるローズマリー。花言葉は「追憶」で、シェークスピアの戯曲「ハムレット」には、ヒロインのオフィーリアが主人公のハムレットを想(おも)ってローズマリーを贈るシーンがある。「私を忘れないで」という意味だ(p.34より)。古典の時代から植物にはその効果や意味があり、それが伝えられ、または発見されてきている。その過程で進化があったとしても、存在し続ける姿はけなげかつ凛々(りり)しい。
私がシャンプー台でお願いできる唯一のラベンダーは、やはり強者であった。リラックス効果(抗不安作用)だけでなく、他にも意外な作用があることを知った。こちらもぜひ読んで確認していただきたい。ポルトガルの国花であるというこの花の原産地は地中海沿岸地方で、日本に渡来したのは江戸時代と書かれている。多くの植物が、外国から持ち込まれた歴史があると思うが、サンショウやスダチ、ミツバなど日本で生まれたものももちろんある。意外なものが意外な国で生まれていたりと、その辺りも面白い。
植物の写真やイラストはないが、手元で検索できる時代にあって、物足りなさは感じない。「香り」は今のところ検索できないため、嗅いだことのある香りの記憶をたどりながら文章を読んだ。「なるほど!」「だからか!」と、暮らしの中での効果にうなずき、そのかぐわしさは植物自身が存続するためのものという生命力をとてもたくましく思った。
この1年はマスクをしていたからこそ、より自然の香りを感じるようになったのではないだろうか。人気のないところでマスクを外すと、雨の匂いや風の匂い、懐かしさを感じてほっとする。そんな日々はまだ続くが、用途に応じた「香り」を取り入れることで、いまより少し快適に過ごすことができるだろう。
(文・岩佐さかえ)
PROFILE
からの記事と詳細 ( マスクが変えた「香り」との距離。意外でうれしい植物の力 - 朝日新聞社 )
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