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Saturday, February 18, 2023

イーロン・マスクのような“情報オリガルヒ”は後に「IT時代の最初の誤り」と記憶される | 「監視資本主義」の生みの親 ... - courrier.jp

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米ハーバード・ビジネススクールの名誉教授ショシャナ・ズボフ。著書『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』(東洋経済新報社)は世界的なベストセラーにPhotos from left: Photo by Bernd von Jutrczenka/dpa/Pool/dpa; Photo by STR/NurPhoto via Getty Images

米ハーバード・ビジネススクールの名誉教授ショシャナ・ズボフ。著書『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』(東洋経済新報社)は世界的なベストセラーに
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Text by Henry Mance

「私たちは検索しているのではなく、“検索”されている」──米ハーバード・ビジネススクール名誉教授ショシャナ・ズボフは、ユーザーの個人情報を利用して富を築く巨大IT企業のビジネスモデルを暴露し、世に大きな衝撃を与えた。

欧米諸国が企業の規制強化に四苦八苦する一方で、ChatGPTといった新たなサービスが誕生する現状をズボフはどう見ているのか、英紙が取材した。


シリコンバレーは、不安定な時代を迎えている。

巨大IT企業はコロナ禍で採用した人員の解雇に追われ、イーロン・マスクに買収されたツイッターは広告主の反発を招いている。「プライバシー擁護者の雄」を称するアップルは、グーグル製品の締め出しに動く。

「デジタル・ウエスト」とでも呼ぶべき無法な開拓時代を経た巨大IT企業は、これからもっと品よく振る舞うようになるのだろうか。

しかしながら、こうした企業を批判する側にとっては、安心できる状況にはない。米ハーバード・ビジネススクール名誉教授のショシャナ・ズボフは、2019年に『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』(東洋経済新報社)を出版し、個人データを吸い上げて巨額の利益を手にするIT企業を糾弾した。

ズボフは現状の問題をこう表現する。

「私たちはグーグルを使って検索していると思っていましたが、グーグルこそが私たちを“検索”しているのです」

IT企業は「個人の内なる聖域」を奪う


IT企業を統制する取り組みが断片化していることも、ズボフは危惧する。ロンドンで取材に応じた彼女は、現状をこう説明する。

「すばらしい学者、研究者、活動家はたくさんいますが、全員が個人情報に焦点を当てているわけではありません。フェイクニュースにしか興味がない人もいれば、民主主義との関連性だけを追っている人もいます」

こうした「バルカン(断片)化」によって、問題の真の原因が見えにくくなっている。いまや個人情報は、木材といった“天然資源”のように簡単に手に入るものになってしまった。問題の根源はここにある。

ズボフによれば、プライバシー関連の連邦法がない米国では、個人の位置情報が1日に747回も漏洩しているという。彼女が最高の規制を持つとみなすEUでも、376回だ。「米国よりはマシですが、充分というにはほど遠いです」とズボフは言う。

メタ社CEOのマーク・ザッカーバーグはかつて、「予測モデルがあれば初めて訪れた街でも行くべきバーがわかり、そこでバーテンダーが好みのドリンクを用意して待っている未来が来る」と請け負った。その夢は実用性という点で薄れたが、原理まで消えたわけではない。

ズボフは2022年11月に発表した論文で、アップルとグーグルが新型コロナの感染者を追跡する技術をめぐり、EUの保健当局を力でねじ伏せたと指摘している。「監視資本主義と民主主義、そのどちらも成立する。だが、両立は不可能だ」と彼女は書く。アップルは、まるで自分たちが「個人情報を保護するロビン・フッド」であるかのような幻想を作り出したが、個人の権利は民主的な監視機能によってのみ守られるはずだ。

アップルがグーグルを牽制する動きも、ズボフに言わせれば監視資本主義の「拡大」にすぎない。ティム・クックはプライバシー保護を約束したが、それはいつでも反故にできる。「そこにユーザーが入り込む余地はありません」と彼女は述べる。

IT企業による監視が問題なのは、生きるのに必要不可欠な「内面性」を私たちから奪うからだと、ズボフは言う。その一方、巨大IT企業のサービスを利用せずに生活するのは、現実的に不可能だ。私たちに必要なのは、「個人の内なる聖域」を守る権利だ。
EUは2022年、現時点で最も包括的なデジタル技術関連の規制法であるデジタルサービス法(DSA)とデジタル市場法(DMA)を導入した。英国議会では、オンライン安全法案が審議中だ。ズボフは、こうした法制化の動きが規制の足がかりになればと期待する。

有害コンテンツの削除は“流砂”みたいなもの


ズボフは1988年に出版した『スマートマシンの時代に』(未邦訳)で、これまでの技術にはなかったような方法でコンピュータが企業のあり方を変えると指摘している。彼女のキャリア後半における集大成が、67歳のときに刊行した『監視資本主義』だ。

IT企業は、個人情報が収集されることをユーザーは嫌がるだろうと知っていたが、あえてそれをやった。「個人のデータを収集している事実は当初から口外してはならないし、ユーザーの目につかないように隠蔽すべきものと理解されていました」とズボフは言う。

彼女によれば、グーグルの幹部は最近、「私たちがユーザーに対してどれほど関心を寄せているかを知られたら、気味が悪いと思われるのではないだろうか?」と発言していたという。

「テック企業は以前と比べ、ユーザーデータ収集で得られた知見を特許化することに消極的です。私たちのような研究者も、彼らの集めたデータを利用できなくなっています」と、ズボフは言う。だからこそ、規制当局が探りを入れる必要があるのだ。

では、EUのデジタル規制法はどのような効果をもたらすとズボフは見ているのか。

「(規制によって)最新の技術や知識に通じた精鋭集団が、IT企業内部に立ち入るようになるでしょう。彼らの任務は“ボンネット”を開け、なかで何がおこなわれているかを理解することです。企業から発信される情報の多くは、初めから誤解を招くような細工がされています。企業のこうした行為は、言葉巧みなガスライティング(誤った認識を作り出そうとする情報操作術)のレトリックそのもので、大きな問題です」

ズボフは簡潔な回答もしないし、平易な言い回しもまず使わない。だが、コンテンツ・モデレーション(IT企業による有害コンテンツの削除努力)に関しては、率直な意見を述べる。

「有害コンテンツの削除は、一度はまったら抜け出せない“流砂”みたいなものです……。IT企業はこちらが足をとられている間に時間稼ぎをして、自分たちがやっていることから逃げ切るつもりでしょう」

一方で、「年齢適正デザイン」には肯定的だ。これは、未成年者に与える危害を最小化し、そのデータ収集に制限を設けたプラットフォームを構築する取り組みだ。英国はインターネット児童保護法でこのプラットフォームをいち早く導入した。だがブレグジットが起きたせいで、英国がEUのデジタル規制法を導入できないことをズボフは懸念する。

「大手IT企業に有利なデータの保護法案を作り出そうとする動きもあります。すでにある規制法を骨抜きにし、民主主義は消えるべきだという誤った考えを植え付けようとしているのです」

プライバシー擁護派にも問題はある。彼らの提案には、ユーザーのメリットがあまりないように見えるからだ。欧州市民がデジタル規制法の影響を感じるのは、クッキー(Cookie)を許可するかどうかを尋ねてくる目障りなポップアップに遭遇したときぐらいだ。規制が役に立たない場合もある。英仏両国はポルノサイトに年齢制限を設けようとしているが、適切な方法をまだ見つけられずにいる。

アップルとグーグルが、新型コロナ感染者の追跡管理技術の主導権を握ったことも批判された。だが、そこにも同じような問題がある。彼らの開発したシステムのほうが、EUの保健当局による中央集権型のシステムよりも機能面で優れていた可能性は否定できない。

ズボフは笑いながら、規制の取り組みにおいてこうした問題が実際に起きていると認めた。

「(テック企業の)内部に潜入して、何が起きているかをこの目で確かめることはできませんから、私たちは敵をよく理解していないのでしょう。目隠しされたまま、規制の方法を考えているようなものです」

彼女が批判するのはテクノロジーそのものではなく、それを支える経済論理にあるとズボフは強調する。それは「盗み」の論理だ。データやそれに基づくIT企業の予測が公益に利用される可能性はあると彼女は考えるが、これに対しては「トレードオフだ」という反論もある。テキストの予測変換であれ、最短のドライブルートの表示であれ、個人のプライバシーを侵害しながらデータを蓄積することでしか、ITサービスは機能しないからだ。

マスクの影響力は「耐えがたい」


ズボフは、イーロン・マスクによる一連のツイッター買収劇をどう見ているのだろうか。

「『次は何をするのだろう』と、一般市民から政治家までが、ひとりの男性に注目しています。政治的な安定や何が真実で何が嘘かの判断、健康や精神の健全性といったものが、彼の決断ひとつに左右されているのです。これは私にとって、耐えがたいことです……。ネットの言論空間は、一企業がコントロールできるものではありません。デジタル時代が始まって20年ほど経ちますが、こうした新しいテクノロジーが民主的な方法で検証されたことはないのです」

マスクはドナルド・トランプ前米大統領のツイッターアカウントを復活させ、メタもトランプのアカウント凍結を解除した。ズボフにとってこれは衝撃だった。彼女は「マスクやザッカーバーグといった個人がこのような決定をするべきではありません」と断じ、民主主義への影響は大きいと批判する。

「情報空間は、法と民主制度によって管理されるべきです。もしこの先、人類に運と決定権がまだ残されていたら、マスクやザッカーバーグのような“情報オリガルヒ”が台頭していた時代は、この新しい文明における最初の誤りだと認識されるでしょう」

ズボフは、欧米の巨大IT企業を中国のような監視国家になぞらえる。

「彼らが作り出しているのは、プライバシーが消滅した世界です。プライバシーはいまやゾンビのようなもの。2000年頃に懸念されていたように、私たちにはもはやプライバシーはないのです」

ズボフのディストピア感覚は本能的だ。「つい最近もレディットの若者たちは、誰かが発明した顔認識を混乱させるフェイスペイントの登場におおいに盛り上がっていました。これは由々しき事態です」と彼女は言う。

監視資本主義に対抗するには、「そもそもデータとは何か」「何のデータを誰とどのような目的で共有するのか」、といったことを規定できる新しい法律が必要だ。昨今は特にAI(人工知能)の進歩が目覚ましい。ズボフはChatGPTについてこう語る。

「ChatGPTは、私たちを震撼させました。開発を規制する法の整備や民主的な監視を怠った結果、AIはこれほどまでに進化を遂げていたのです」

AIは、ユーザーデータの盗用の繰り返しによって発展してきた。ゆえにズボフはEUで検討されている規制法案が、AIに監視を求める最初の民主的な法律になることを期待する。

シリコンバレーの足元はいま、ふらついている。にもかかわらず、相手が一歩先んじている感覚はいまだぬぐえない。


©️The Financial Times Limited 2023. All Rights Reserved. Not to be redistributed, copied or modified in anyway. Kodansha is solely responsible for providing this translation and the Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

PROFILE

ショシャナ・ズボフ
1951年生まれ。米ハーバード・ビジネススクールの名誉教授。デジタル資本主義の専門家として、デジタル革命がもたらす労働と消費社会の変化を研究している。著書『監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い』(東洋経済新報社)は世界的なベストセラーになった。

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