「漫画の巨星・梶原一騎の世界」第5回は、覆面プロレスラーの活躍を描いた漫画「タイガーマスク」(漫画・辻なおき)。「あしたのジョー」と同時期に連載が始まった同作は、アニメも大ヒットするなど、子供たちの絶大な支持を集めた。正体を隠しながら児童養護施設の子供たちのために戦うタイガーマスク。壮絶な結末には梶原の思いが込められていた。(久保 阿礼)
梶原いわく、タイガーマスクは「現代版のチャンバラ」だった。舞台は、「四角いジャングル」と表現したリング。自らの正体を隠しながら、華麗な技で鮮やかに敵をやっつける姿に子供たちは熱狂した。
「巨人の星」「あしたのジョー」同様、漫画とアニメの相乗効果で爆発的なブームを起こした。高らかに鳴り響くストリングス(弦楽)、「虎だ、虎だ、お前は虎になるのだ」というセリフが流れるオープニング曲「行け! タイガーマスク」は、今も多くの人々の記憶に残っている。
世界中の孤児を集めて悪役レスラーを養成する「虎の穴」で地獄の猛特訓をくぐり抜けた主人公の伊達直人は、極悪非道のタイガーマスクとしてデビューする。反則の限りを尽くしたが、自らを育ててくれた児童養護施設「ちびっこハウス」にひっそりと巨額のファイトマネーを寄付していた。しかし、施設は想像以上に困窮。「虎の穴」への上納金が払えなくなると、「組織に対する裏切り者」として、極東担当地区マネジャーのミスターXから次々と刺客を送り込まれる。
子供たちのために正統派となり、ジャイアント馬場やアントニオ猪木とも共闘するタイガー。弱肉強食を是とする「虎の穴」との攻防は意外な結末を迎えるが、実は漫画とアニメでは結末がかなり異なる。
梶原作品の著作権を管理する長男の高森城が解説する。「アニメでは悪役の反則攻撃にある意味、負けてしまい、伊達は『皆の前にいることはできない』と言って、目的としていることを一切、達成しないで去っていきます」。アニメ版ではタイガー・ザ・グレートの反則攻撃に屈し、マスクをはがされた直人は自らのファイトスタイルを恥じ、子供たちの前から姿を消す。
漫画版はより衝撃的だ。ドリー・ファンク・ジュニアとのタイトルマッチ再戦の直前、トラックにひかれそうになった少年を助けようとした直人自身がひかれてしまい、手元のマスクをさっと川へ投げ捨てる。直人は息を引き取るが、タイガーマスクは行方不明のまま、子供たちの希望の星となる。高森は原作者の思想を強く反映しているのは漫画の方だという。
「伊達は『本当のレスラーは、反則にも強くて正統派のレスリングにも強い。それがレスラーとしての完成形だ』と気づきます。梶原作品は、悲劇的な最後を迎えると言われますが、最終的には一番最初の目標は達成して、失うべきものを失っていく。そこに梶原の思想があると思います。一番の目的を達成するためには、全てを投げ捨てなくてはならない。全てを犠牲にしても、それさえ成し遂げれば、主人公は幸せなんだと」
漫画、アニメが終了してから10年後。現実のリングに登場したタイガーマスクが、子供たちのヒーローとして再び熱狂を巻き起こす。(敬称略)
◆虎の穴 スイスのアルプスの山に本部を構える。巨大な虎のモニュメントが特徴。ライオンと格闘、長時間の逆さづりなど過酷な特訓を経た者だけが悪役レスラーとなる。若手育成機関の代名詞として、今も一般的に使われる。
◆タイガーマスク 月刊誌「ぼくら」の1968年1月号から連載開始。その後71年まで、「週刊ぼくらマガジン」「週刊少年マガジン」で連載される。アニメは69年10月から71年9月まで日本テレビ系で放送。2013年にはウエンツ瑛士主演で実写映画化もされた。
◆梶原一騎(かじわら・いっき)本名・高森朝樹(たかもり・あさき)。1936年9月4日、東京・浅草生まれ。都立芝商業高中退後、梶原一騎のペンネームで「少年画報」掲載の「勝利のかげに」で作家デビュー。64年に結婚した篤子夫人とは71年に離婚するが、85年に復縁した。「壊死(えし)性劇症膵臓(すいぞう)炎」で入院するなど晩年は病との闘いが続き、87年1月21日に都内の病院で死去。享年50。
からの記事と詳細 ( 漫画とアニメでは結末が違った「タイガーマスク」原作者の思想を反映していたのは…梶原一騎の世界 - スポーツ報知 )
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