Christian Marquardt - Pool/Getty Images
電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がこのほど中国を電撃訪問した。マスク氏はインドに向かうはずだった予定を急きょ北京に変更し、中国政府は政権ナンバー2の李強首相が会談に応じるという破格の対応をみせた。専門家は、中国側とテスラの双方にとって、今回の会談は逃すことのできない千載一遇のチャンスだったという。その理由とは ——。
イーロン・マスク氏。
イーロン・マスク氏のXより
マスク氏は4月28日、予告なしに訪中し、対応した李強氏はマスク氏を歓迎。「中国におけるテスラの成功は米中の経済協力の成功例」と称賛。中国市場は変わらず外資企業に開放していると強調した。
一方のマスク氏は中国での電気自動車産業の発展を称え、「今後全ての車は電動化されるだろう」と述べた。また、テスラの巨大な上海工場について、中国チームの努力に感謝するとし、同社の工場の中でも最も業績が良いと説明した。
そのマスク氏は訪中の約1週間前、予定されていたインドのモディ首相との会談を突然中止した。世界最大の人口大国となったインドのトップより、中国政府要人との会談を優先しなければならないほどの理由とは一体何だったのか。
専門家は、同社株価の大幅下落がそのひとつだとみる。
米経済誌「フォーブス」によると、テスラ社株は4月19日に年初来の下落率が40%を超え、投資家は同社株に警戒感を示している。「テスラはまだ成長株のように評価されているが、実際には成長しておらず、成長する見込みも当面ないこと」がその理由だとしている。
同誌は、「テスラが初期に多くの投資家を魅了した力強い収益の成長と、収入を生み出す能力を取り戻すのにしばらく時間がかかる」と予想し、過去最高益となった2022年の140億ドル(約2兆2100億円)の水準に近づくのは26年になるだろうと伝えた。
そんな中、テスラにとって主要市場の中国の重要性はこれまで以上に増している。米ブルームバーグによると、同社はここ1年半ほど、中国での利益を完全に帳消しにしかねない水準まで値下げを繰り返しているという。乱立する中国の電気自動車メーカーとのし烈な価格競争の結果だ。そんな競合他社との差別化を図る上で、テスラが注力する戦略は完全自動運転(FSD)の構築だ。カメラが人間の目の役割を果たし、地図データを使わない完全自動運転を目指すものだ。そのためには人工知能(AI)に膨大な量の情報をインプットする必要があり、マスク氏は先日、自身のX(旧ツイッター)のアカウントを更新し、「テスラは今年、100億ドル(約1兆5700円)をAIに費やす」と表明した。
テスラのSUV型の普及車「モデルY」。
撮影:山﨑拓実
時事通信によると、中国で外資企業が自動運転技術を使って車を走らせるには当局の許可を持つ現地企業との提携が必須だが、テスラは中国IT大手百度(バイドゥ)との協業によりこの障壁をクリアできる見込みだという。
また、テスラにとって中国市場でネックとなっているのが、同社が開発した「セントリーモード」という車に搭載された防犯システムだ。駐車されロックされている状態で、周囲の不審な動きを監視する機能で、脅威を受ける状況になれば車両が反応し、カメラ録画や警報システムが作動するというもの。
このシステムの情報収集能力を中国政府は警戒しており、テスラ社の車両には軍事や行政機関などの施設、中国の大手企業やその研究施設などの近くでの充電を含め、乗り入れ禁止の制限がかけられ、テスラ車オーナーにとって不便さが問題になっている。それらの課題についてマスク氏は李強首相ら政府要人に是正を申し入れたとされ、中国メディアはマスク氏訪中翌日の4月29日、中国当局が政府機関などで制限しているテスラ車の乗り入れを解禁するとの見通しを伝えた。
一方、マスク氏の訪中は中国政府にとって、まさに“渡りに船”だという。コロナ禍明けに回復するはずだった中国経済は深刻な経済不況をもたらしている。不動産不況に加え、1800兆円を超える地方政府の債務問題も浮上。米国を中心とした西側との対立を深める習近平指導部による改定反スパイ法は外資を追いやった。
大和総研が引用した中国の国際収支統計(国家外為管理局)によると、2023年の中国への対内直接投資(流入から撤退などの流出を差し引いたもの)は前年比81.7%減の330億ドル(約5兆1550億円)で、30年ぶりの低水準となり、ピークの21年から10分の1以下に激減した。
そんな状況下で、マスク氏は李強氏に、「テスラは中国と協力をさらに深め、より多くのウィンウィン(相互利益)の成果を得たい」と発言。中国政府が米大手企業のテスラのさらなる中国市場への展開に期待を寄せるのは当然で、「外資企業のために、より優れたビジネス環境を提供する」と表明した。
米有力企業であるテスラによる中国へのさらなる投資が、ほかの外資の呼び水になることを中国側は期待。テスラは中国当局による一層の優遇処置と市場拡大を狙う 、というのが双方の思惑のようだ。
からの記事と詳細 ( 電撃訪中のマスク氏。インド行き「ドタキャン」を歓迎した中国、双方のお家事情とは - Business Insider Japan )
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