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Tuesday, June 2, 2020

調理前のリスクだけじゃない!食べ物から感染する病気の基礎知識 - ZUU online

(本記事は、勝田吉彰氏の著書『「途上国」進出の処方箋-医療、メンタルヘルス・感染症対策』経団連出版の中から一部を抜粋・編集しています)

食べ物から感染する病気

食べ物から感染する「経口感染症」にはいくつかのパターンがあります。食べ物や水そのものに病原体が含まれるもの、調理・梱包・販売される過程で取り扱う人の手から感染するものなどです。ここでは主だったものを紹介します。

❖キャンピロバクター

日本でも食中毒発生件数は第1位です。生肉の摂取で感染することが多く、鶏のたたきなどは高リスクです。また、海外の焼き鳥屋では現地従業員が必ずしも調理に習熟しておらず、生焼けの焼き鳥、たたきなどリスクの高いものがありますので、のれんなどに書かれた日本語に惑わされないよう注意します。

❖ノロウイルス

感染力が強いのが特徴で、日本では食中毒発生件数は2位ながら、感染者数では1位です。感染者の吐物や便を介して、あるいは吐物等から空中に舞い上がったものを吸引するなどして、感染が広範に拡大していきますので、吐物は、まずは新聞紙等で覆って空中に舞わないようにし、塩素系消毒薬で消毒します。台所用漂白剤も消毒に有用です。

貝類の体内で濃縮されて、それを食べることで感染することもあります。筆者はアフリカのセネガル在勤中に、海辺のリゾート地で欧州からのバカンス客が警戒なく生牡蠣を食べている光景を目にしていましたが、地元の人間はけっして口にしませんでした。

❖サルモネラ

サルモネラ菌によって感染します。食肉や鶏卵でリスクがあります。発展途上国では、冷蔵すべきものを冷蔵しないで売っていたり、冷蔵していても頻回な停電で、知らぬ間に増殖していることがある点に留意してください。

▲鶏卵は糞便が付着した状態で売られているのが一般的

❖A型肝炎

A型肝炎は、肝炎ウイルスのうち、経口感染するタイプです。感染した調理人が十分に手を洗わずに調理し、その手や調理器具から感染することが一般的です。このほかに、ノロウイルスと同様に貝類の体内で濃縮されるケース、水道管のひび割れで土中のウイルスが混入するケースもあります。肛門性交で感染することも報告されています。

❖腸チフス・パラチフス

アジアの医療機関の日本人患者の受診案件で割とよく出てくるのが腸チフスです。南西アジア、東南アジア、アフリカに分布します。

チフス菌・パラチフス菌によって汚染された生水(氷)、生肉、生野菜などの摂取によって感染する消化器感染症です。下痢や発熱とともに発疹の出ることもあり、重症化すると腸出血や穿孔(腸に穴があく)に至ることもあります。

食事一般の注意事項である「Cook it, Boil it, Peel it」が予防法となります。ワクチンは日本製で認可されたものがないので、外国製を個人輸入して接種しているトラベルクリニックか、 国外で接種することになります。

❖腸管出血性大腸菌(O157など)

腸管出血性大腸菌というと、なんだかむずかしそうですが、O(オー)157の仲間と聞いたらピンとくる人も多いかと思います。大腸菌は腸内に常在するものが大多数ですが、中には、毒素を出してさまざまなトラブルをおこす大腸菌があります。その代表格がO157です。重症化すると溶血性尿毒症症候群という、腎臓が働かず体中の老廃物が排出できない状態に陥り、死に至ることもあります。

この感染症は食中毒として大きく報じられます。先進国でも、たとえばアメリカでは、ロメインレタスやカットフルーツからの感染がたびたび発生しています。広域流通網に乗って思わぬ遠方まで広がることがあり、たとえば2018年にはアリゾナ州やカリフォルニア州の農場から出荷されたものが全米はもとよりカナダにまで拡散しています。2019年にはカットフルーツで同様の騒動が生じました。

日常的に発生するものではなく、発生すると保健当局から注意喚起が発出され、マスメディアで報道されるので、普段から現地の報道にアンテナを立て、現地の人から情報が入るようにしておくことが予防手段のひとつになりえます。

病原体が産出する毒素で症状が出るものなので、強い下痢止めで無理に抑えると、毒素の体外への排出も止めてしまい、かえってトラブルを大きくします。自己判断での服薬はリスクが非常に大きいので、速やかに医療機関を受診してください。重症化したときは迅速な入院管理も必要です。吐物や排泄物からも感染しますから、処理するときには消毒薬を忘れないようにしてください。

❖赤痢

発展途上国の生活で遭遇することの多い消化器疾患です。細菌性とアメーバ性があり、まったく別ものです。細菌性は赤痢菌によって、アメーバ性は原虫(寄生虫)によっておこる感染症です。発熱や下痢に加えて、裏急後重(りきゅうこうじゅう)という症状が認められます。別名「渋り腹」ともいい、ぎゅーっと便意がきてトイレに駆け込むも排便は少量。再度、ぎゅーっときてトイレを往復するような状態です。便には血液や膿が混じります。症状は細菌性のほうが重く、アメーバ赤痢ではトイレとの往復をしながらも寝込むには至らずなんとか仕事ができるケースもあります(けっしてすすめませんが)。

治療は、細菌性には抗菌薬を、アメーバ性にはメトロニダゾールという駆虫薬を服用します。いずれも要処方薬なので医療機関の受診が必須です。

事例7  トイレの往復でも倒れないのは?〜アメーバ赤痢
教育関係のNGO活動で東南アジアのX国に駐在したAさんは、村の小学校で教壇に立ち、歌やお遊戯、ときには日本語を教える活動をしています。数日前から下痢が続いていて時折、お腹がぎゅーっとなり、そのたびにトイレに駆け込んでいます。すっきり出たという感覚もなく、またぎゅーっとくる状態の繰り返しです。便に血が混じっているのに気づき、慌てて病院を受診し検査したところ、アメーバ赤痢と診断されました。しばらく子どもたちと過ごせなくなるのは寂しいですが、処方された薬を飲んで1週間お休みしました。あとで思い返すと、村のお祭りでふるまわれた料理、お盆に山と積まれたものを子どもたちと一緒に手づかみで食べたのがいけなかったのかもしれないと思い当たりました。

調理の前のリスクに留意する

食品の取り扱い方

自炊も含め、食品の取り扱い方でリスクが高まってしまうことがあります。たとえば鶏卵。卵の殻には糞便が付着したまま自然に売られているのが発展途上国の(一部先進国でも)常識です。卵の殻を割る前には、水洗い(飛び散らないように水をためて)してから扱います。鶏肉は、サルモネラやキャンピロバクターといった食中毒の原因となる病原体に汚染されていることがあるので、流水で洗うとキッチンまわりに飛散し、他の食品を介して感染源になる旨、アメリカ当局から注意喚起が出されており(https://www.cdc.gov/features/SalmonellaChicken/index.html 参照。 検索ワード CDC, Chicken and Food Poisoning)、YouTube にも動画があります( 検索ワード See how the Campylobacter chicken bug spreads in a kitchen)。

▲鶏の生肉は調理するときもリスクが高い

飲食店選びの着眼点

手洗いの様子、食材の保存と回転状況をチェック

食材自体、あるいは調理・梱包・販売される過程で取り扱う人の手から感染するリスクは避けたいものです。発展途上国の環境でこのリスクを完全に取り除くのはむずかしいかもしれませんが、リスクを減らすことはできます。自分の日常生活の範囲内で可能な限り対応していきましょう。

飲食店選びで意識したいのは、「手洗い、食材、回転」です。手洗いは、調理人の手を介しての感染リスクを左右します。致命的に危険なのは、水道の設備がない場合で、屋台など簡易店舗では、付近に水道の設備がなければ、手洗いも食器洗いも、バケツにためた水で石鹸も使わずにさらっとすすぐだけというのが一般的です。当然、十分な洗浄はできません。

また、お客が多くうまく回転しているお店では食材の鮮度が相対的によくリスクは下がりますが、それでも食材の保存状態には注意が必要です。発展途上国のなかには、発電量が需要を満たせず、頻繁に停電する国もあります(筆者が在勤したスーダンでは1日4時間しか電気がこない日もあり、またセネガルでは停電⇒復電を頻繁に繰り返す日々。ミャンマーでは「安定して停電しています」と言う駐在員の言葉に実感がこもっていた)。自然に任せていれば、冷蔵庫・冷凍庫内の温度は上がったり下がったりになります。食品を取り出すときは十分冷えていて大丈夫と思っても、前夜には常温まで上がるときがあった(それを繰り返していた)、となるとリスクは高まります。飲食店が自家発電機を備えているかどうかもチェックポイントです。

食べ物のリスクをぐっと減らす魔法の言葉

Cook it, Boil it, Peel it の実践法

食事メニューを選択する際は、何に注意すればよいでしょうか。渡航医学の世界にある諺が、「Cook it, Boil it, Peel it」です。

❖ Cook it
「よく焼いて食べましょう」
❖ Boil it
「生水は沸かして飲みましょう」「煮て食べましょう」熱を加えたものを口にすることが原則です。
❖ Peel it
「むいて食べましょう」果物は、皮をかぶった果物(柑橘類、バナナ、りんごなど)を買ってきて、自分で皮をむいて食べます。カットフルーツは、それを用意した調理人の手や使用した包丁は清潔か、盛りつけてからハエなどが接触していないかなど、リスクとなる要因が多々あります。また、甘い香りを放つ果物は、昆虫を引き寄せます。

この諺には、「Forget it」という続きがあります。長期間の滞在では、ついつい生ものに手を出してしまったり、つき合いで仕方なく一緒にお店に、という状況も出てくるでしょう。普段ならしっかり警戒していても、日本料理店に入ると途端にガードが下がって寿司や刺身を食べて下痢をするケースも少なくありません。なお、必ずしもCook it, Boil it, Peel it とはいかない場面も出てきますので、開き直る人もいます。だからか、「あきらめる」と訳す向きもあります。

下痢を何度も繰り返していると、過敏性腸症候群になってしまうケースもあります。そこでおすすめするのが、「自分なりの線引きを考えておく」というものです。業務上(あるいはプライベートに)、このレベルならば目をつぶってつき合う、しかしこれぐらいのレベルのおつき合いは断わる、といった具合です。

▲駅のホームにてハタキでハエを追い払いながらカットフルーツを販売中。レストランでは客席から見えない厨房でこのプロセスが展開されているので、カットフルーツは避けるべき

▲フェリーの雑踏のなかでカットフルーツ販売中

「途上国」進出の処方箋-医療、メンタルヘルス・感染症対策』

勝田吉彰

川崎医科大学大学院修了。1994年外務省入省。スーダン、フランス、セネガル、中華人民共和国などの日本国大使館の書記官兼医務官、参事官兼医務官などを経て2006年近畿医療福祉大学(現神戸医療福祉大学)教授。2012年より関西福祉大学社会福祉学部社会福祉学科・大学院社会福祉学研究科教授。医学博士。専門は渡航医学、メンタルヘルス。労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、日本渡航医学会認定医療職、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医。※画像をクリックするとAmazonに飛びます

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