オンライン専用の「povo」を含めて新料金プランを発表したKDDIの髙橋誠社長。
出典:KDDI
KDDIがNTTドコモ「ahamo」に対抗したオンライン専用料金プラン「povo」を発表した。月間20GBで月額2480円と、ahamoよりも500円下げてきた。
ただし、ahamoには1回5分までのかけ放題が含まれているが、povoは500円を支払わないと1回5分までのかけ放題は使えない。つまり、「データ20GBと1回5分までのかけ放題」に条件を揃えて比べると、いずれも2980円で横並びになる。
KDDIとしては、ahamoとソフトバンクの「SoftBank on LINE」に続く「後出しじゃんけん」には絶対に負けられない。しかも、2020年12月にはドコモがahamoを発表した直後にAmazonプライムプランを発表し、大炎上。今回ばかりは失敗できない発表会だった。
実際のところ、月額2480円という他社よりも安く見える金額設定でシンプルに見せる一方、1回5分までのかけ放題などを「トッピング」と呼び、「必要な人だけ契約してください」というスタンスにしたことは、ネットでおおむね好評だったようだ。
料金改定発表はサブブランドでもまだまだ続く
最低価格が他社のオンライン専用プランに比べて500円安い2480円を打ち出したpovo。
出典:KDDI
やはり2480円のインパクトは相当大きい。NTTドコモとソフトバンクも対抗値下げをせざるを得ないのではないか。
といっても、povoと同様に1回5分のかけ放題を切り離すだけでいい。2480円とpovoと同額にしつつ、500円のオプションとして1回5分までのかけ放題を提供するのが、対抗値下げとしての現実的な答えだろう。
いずれにしても、3社ともサービス開始は2021年3月であるため、提供開始日まではさらなる「料金改定発表」がありそうだ。
UQ mobileの新料金プランもおトク感がある。
出典:KDDI
povoのインパクトによって影が薄くなっているが、実は、今回の発表会ではUQ mobileのほうが競争力があるという見方ができる。
新しい料金体系は月間3GBで月額1480円、月間15GBで月額2480円、月間25GBで月額3480円といった具合だ。ちなみに、ライバルであるワイモバイルのプランは、月間3GBで月額1980円、月間10GBで月額2980円、月間20GBで月額3780円。2月から提供開始予定だ。
UQ mobileとワイモバイルを比べると、明らかにUQ mobileの方が容量が多く、さらに安い。ワイモバイルは早急に料金改定を迫られることだろう。
UQ mobile新料金でなくなる「MVNOを選ぶ理由」
日本通信の「合理的20GBプラン(今は16GB) 」。
撮影:小林優多郎、出典:日本通信
ただ、ここまで安くなってしまうと、キャリアから回線を借り、格安スマホサービスを提供してきたMVNO(仮想移動体通信事業者)としては、経営が相当苦しくなるのではないか。
日本通信がahamo対抗として投入した「合理的20GBプラン」は16GB(ahamoサービス開始後は20GB)で1980円、70分の無料通話がついているなど、まだ競争力はあるかもしれない。
しかし、他のMVNOは3GBで1600円程度となっており、UQ mobileの新料金プランとほぼ同等だ。
UQ mobileであれば、三姉妹のCMで知名度はあるし、街中にもショップがあり、店頭でのサポートに頼ることができる。ネットの速度も、MVNOが遅くなる昼間であっても快適……。
そう考えると、MVNOを選ぶ理由がなくなってしまう。
撮影:今村拓馬
キャリアとしては、この数カ月で武田良太総務大臣が動いたことで、サブブランドだけでなく、メインブランドの大容量プラン、さらにはオンライン専用プランを開始するなど、ほとんどの料金プランで値下げをせざるを得なくなった。収益に与えるダメージはとてつもないことになりそうだ。
ただ、今回オンライン専用プランとサブブランドで値下げしたことにより、これまで格安スマホに流れていたユーザーを取り返すことはできるかもしれない。
こうしたユーザーは本当に賢く使いこなしているため、あまりデータ容量を使ってくれない。また、すぐに他社に乗り換えてしまうため、必ずしも優良顧客になりにくいのだが、それでも格安スマホユーザーは新規顧客として、キャリアにとって格好のターゲットとなりそうだ。
5G普及で「20GB」に満足できるのはあと1、2年
日本のスマホユーザーの9割が月間20GBもデータを使っていない、とする総務省資料。
出典:総務省「モバイル市場の最近の動向について」(2020年12月21日)
総務省が2020年11月27日の大臣会見で示した資料によると、スマホユーザーの9割が毎月20GBも使っていないというデータがある。つまり、3社のオンライン専用プランであれば、9割の人が満足して使えるというわけだ。
しかし、この調査はあくまで過去の話でしかない。実際のところ、2020年からのコロナ禍によって「20GBでは足りない」というユーザーも増えている。
とくにahamoなどが狙う大学生などの若いユーザーは、一人暮らしで自宅に固定回線がないなか、スマホですべてのデータ通信をまかなっている人も多い。外出ができないなか、ビデオ会議アプリやオンライン授業であっという間に20GBなんて使い切ってしまう。
エリクソンは、2023年には日本を含む北東アジアでのモバイルデータトラフィックが20GBを超えると予想している。
出典:「エリクソンモビリティレポート」(2020年11月)
キャリアの通信機器を納入するエリクソンの「エリクソンモビリティレポート」(2020年11月版)によると、2020年の北東アジアにおけるスマートフォン1台あたりのモバイルデータトラフィックは11.1GBだった。これが2021年には約15GB、22年には約20GBになるとエリクソンでは予測している。
つまり、20GBで事足りるのはこの1〜2年であり、すぐに20GBでは足りなくなり、無制限プランへの切り替えを余儀なくされるということだ。
「月々の支払いが2980円になるなら、5Gスマホに乗り換えるか」とiPhone 12シリーズを筆頭に5Gスマホが普及。さらに5Gエリアが広がれば、さらにスマホにデータが大量に流れるようになる。5Gが広がれば広がるほど、20GBでは足りない人が増えてくる。
「スマホ代が下がった」と諸手を挙げて喜べるのは2021年限りで、早晩「すぐに容量を使い切ってしまうので、無制限プランに切り替えよう」という話になり、1〜2年後にはキャリアに支払う額が逆に増えることになりそうだ。
ブランド間での移行手数料もなくなった中、上位プランへの転換もしやすくなっている。
出典:KDDI
キャリアとしては、一気に5Gエリアを広げ「無制限プランに切り替えるユーザーを1人でも多く増やすこと」が重要になってくる。
キャリアにとって、オンライン専用プランの導入は経営の痛手になるが、5Gスマホユーザーを増やす「撒き餌」として割り切ったということではないか。
今回、各社が新料金プランを拡充させたことで、図らずも日本で5Gが一気に浸透することになりそうだ。
(文・石川温)
石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(MdN)がある。
からの記事と詳細 ( KDDI新プラン「povo」登場で続く、料金改定の波と3キャリアの思惑 ── 月間20GBで満足できるのはあと1、2年 - Business Insider Japan )
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