電気自動車(EV)メーカー、米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の部下たちは混乱に慣れている。厳しい目標を設定し、しばしば突然方向転換する経営者の下で働くということはそういうことだ。伝記作家はマスク氏の激しい気分を「 悪魔モード」と表現している。
しかし、そうした テスラ基準からみても、今年は手に負えない状況だ。販売不振や混乱した製品開発方針、追加値下げを受け、株価は40%余り下落した。かつて中国EV市場で圧倒的な強さを誇ったテスラの地位は脅かされている。モディ首相との会談も予定していたインド訪問は投資発表が期待されていたが、直前になって 延期された。その間、取締役会は1月に判事が無効判断を下したマスク氏への560億ドル(約8兆6600億円)の報酬を復活させようとしている。
23日の決算発表では、テスラは営業利益の40%減少と4年ぶりの減収を報告する見込み。マスク氏は同社として過去最大のレイオフを命じ、「ロボタクシー」と呼ばれる次世代の自動運転車コンセプトに会社の将来を賭けた。CEOの指示について知る複数の関係者らは、マスク氏が推進を目指す見直しに不安を感じていると匿名で話している。
自動運転タクシーサービスの構想は、少なくとも8年前からテスラの周りで浮上していたが、同社はまだ必要なインフラの多くを立ち上げておらず、公道でのテスト走行で規制当局の承認も得ていない。価格を2万5000ドルに抑えた大衆車の投入計画は、多くの投資家(そして一部の内部関係者)が同社の将来にとって極めて重要だと考え推進しようとしているが、マスク氏は当分の間、先送りすることとした。
戦略転換に関する報道を受け、テスラのパワートレイン・エンジニアリングとエネルギー事業を率いていた勤続18年のベテラン、ドルー・バグリノ氏を含む主要管理職が 退社した。
マスク氏(52)は過去にテスラを何度も窮地から救ってきた。同社の時価総額は4690億ドルで、依然としてゼネラルモーターズやフォード・モーターの9倍強だ。だが、時価総額が4カ月間で3500億ドル近く減少し、従業員や投資家、アナリストは同様に当惑し、テスラの戦略に疑念を抱いている。
ドイツ銀行のアナリスト、エマニュエル・ロズナー氏は先週、「これまでテスラのEV販売台数とコストの優位性に注目していた投資家がさじを投げる能性もある」と指摘。テスラ株の投資判断を「買い」から引き下げ、目標株価を3割強下方修正した。
マスク氏は自身のソーシャルメディア上で、最近の措置が「 戦時CEOモード」に入ったことを意味すると示唆している。テスラが全世界の従業員の10%強(少なくとも1万4000人)を削減すると発表する全社メールを送信後、マスク氏が戦時CEOモード入りしたとする論評が外部からX(旧ツイッター)に投稿され、同氏は「いいね!」の反応を返した。
同社の計画に詳しい関係者によれば、実際には解雇者数は2万人を超える可能性もある。マスク氏の指示を直接知る人物の話では、テスラは昨年10-12月(第4四半期)から今年1-3月(第1四半期)にかけて納車台数が20%減少したため、人員を2割削減すべきだというのがマスク氏の論拠だという。
今回のリストラの後も残っている従業員に対し、マスク氏は進軍命令を根本的に変更し、「自動運転に全力を挙げる」と先週 宣言した。ロボタクシーは現在、マスク氏が4年前に初めて予告した低価格EVよりも優先されており、試作品のスケジュール設定と生産能力手配の両方に関して優先度が高いと関係者1人は明かした。
マスク氏は自動運転について10年余りにわたり壮大な目標を語っており、自動運転支援システム「FSD(フルセルフドライビング)」として売り出した製品について何千ドルもの価格を顧客に納得させてきた。ただ、FSDは正しくない名称で、常時監視を必要としており、自律走行を表すものではない。それでもマスク氏はこのブランド名にふさわしいものになりつつあると繰り返し述べてきた。
マスク氏とエンジニア幹部らは、FSDの機能の大きな変化に特に強気だ。車の周囲にカメラが設置され、取り込んだ映像を使って車の運転方法を指示しており、ソフトウエアコードに頼ることはない。テスラのオートパイロットプログラム責任者のアショク・エルスワミ氏は先月、「前例のない進歩 」につながるはずだとXに投稿した。
しかし、FSDを巡る楽観論と、こうした新たなアプローチによるロボタクシー実現へのマスク氏の信念が、2万5000ドルの低価格EVプロジェクトの将来を曇らせている。
関係者らはロボタクシーが優先されていると確認したが、次世代車両プロジェクトは部品や生産方法からコスト削減を絞り出し、そうした技術革新を同社の人気2車種である「モデルY」と「モデル3」の廉価版に適用する取り組みだと関係者の1人は説明した。
トヨタ自動車の「カローラ」のような手頃な価格帯での選択肢となる低価格車の計画をテスラが完全に破棄したとの報道に動揺した投資家にとって、こうした説明がどれほどの慰めになるかは不明だ。
モデルYの発表後5年の間に同社が消費者に提供する新型車が、製造の難しい高価なピックアップトラック「サイバートラック」だけになることを懸念する声も多い。先週、同社はアクセルペダルの不具合を修正するため、販売した約3900台のサイバートラックを リコールした。
ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、スティーブ・マン氏は「投資家、特に機関投資家は辛抱できなくなりつつある。FSDとロボタクシーに関する当初の大騒ぎは弱まり、振り子は反対方向に振れている」と指摘した。
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原題: Tesla Is Consumed by Chaos in Shift to Musk’s Robotaxi Dream(抜粋)
からの記事と詳細 ( テスラを飲み込むカオス、マスク氏はロボタクシーの夢に重点シフト - ブルームバーグ )
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