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Thursday, October 15, 2020

iPhone 12シリーズは5G普及の起爆剤になるか 日本市場へのインパクトを読み解く - ITmedia

kuebacang.blogspot.com

 例年より、約1カ月遅れで開催されたAppleのスペシャルイベント。ここでは、新たにiPhone 12シリーズが発表された。ど真ん中のモデルである「iPhone 12」の上に、“プロ用”のカテゴリーを設け、「iPhone 12 Pro」やその大画面版にあたる「iPhone 12 Pro Max」を用意したのは2019年と同じ。一方で、2020年は、iPhone 12の下によりサイズの小さな「iPhone 12 mini」も新たに投入し、全4モデル構成になった。

 iPhone 12シリーズは、「iPhone X」の登場以降、初めてベースのデザインを大きく変えたフルモデルチェンジの端末になる。特に大きなトピックが、5Gへの対応だ。AppleのCEO、ティム・クック氏が「新しい時代のiPhoneの幕開け」と語っていたことが、その期待感の大きさを表している。イベントに登壇した米キャリアVerizonのCEO、ハンス・ベストベリ氏が「これで5Gの全てのピースがそろった」と語ったように、業界では5Gの普及を加速させるとの見方も強い。

iPhone 12 5Gへの対応を大々的にアピールしたティム・クックCEO
iPhone 12 イベントには、VerizonのCEOを務めるハンス・ベストベリ氏も登壇した

ついに登場した5G対応iPhone、垂直統合型のモノ作りを生かす

 事前の予想では見方が分かれていたがiPhone 12シリーズの5G対応状況だが、ふたを開けてみると、機種間に通信方式の差はなかった。コンパクトなiPhone 12 miniも含む全機種が5Gをサポート。日本版は、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が利用するSub-6の周波数にフル対応する。米国版のみ、全機種でミリ波を利用できるのも大きなサプライズだったといえる。

iPhone 12 iPhone 12シリーズは、全機種が5Gに対応した。米国版はミリ波もサポート

 もともと、Appleは5Gに対応するため、モデムの製造をIntelに依頼していた。スマートフォン向けプロセッサで高いシェアを誇るQualcommとは、ライセンス料などを巡り、法廷闘争を繰り広げていたからだ。ところが、Intelは5Gモデムの開発に後れを取り、iPhoneへの搭載が難航していた。結果として、AppleはQualcommとの和解を選びつつ、Intelのスマートフォン向けモデム事業を買収。iPhone 12シリーズからの5Gモデムは、Qualcommが供給する運びとなった。

iPhone 12 Appleとの和解後、2019年9月に来日したQualcommのクリスチアーノ・アモン社長は、5G対応iPhoneを楽しみにしていると語っていた

 イベントでも語られていたように、Appleの強みは、端末の製造からソフトウェアまでをシームレスに統合できるところにある。垂直統合のビジネスモデルと言い換えることも可能だ。また、5G対応にあたっては、世界各国のキャリアとの協業も強化しつつ、「世界で最も多い5Gのバンドに対応した」(ワイヤレステクノロジー&エコシステム担当上級副社長 アルン・マシアス氏)。単にモデムを搭載しただけでなく、iOSのフレームワークを最適化することで、高速化を図っているのが特徴だ。

iPhone 12 マシアス氏によると、ハードウェアとソフトウェアをシームレスに連携できることが、5G対応でも強みになるという

 iOSそのものを5Gに最適化した結果、動画のストリーミングやFaceTimeを5G接続時に高速化できる他、5Gのスピードが必要ないときに自動でLTEに接続を切り替え、バッテリーを節約する「スマートデータモード」にも対応。先に挙げたように、米国のみだが全機種でミリ波をサポートしたインパクトも大きい。ミリ波は、周波数が非常に高いことから、アンテナの実装などの難易度が一気に上がるからだ。

iPhone 12 iPhone 12シリーズでは、OSやアプリケーションも含め、5Gへの最適化が図られたという
iPhone 12 通信状況に応じて、5Gから4Gに自動で切り替える「スマートデータモード」に対応する
iPhone 12 キャリアとの協力関係も強調。対応バンド数では、5Gスマートフォン最多になった

 他社を見ると、比較的大型の端末だけがミリ波対応になっているケースも多い。例えば、サムスン電子はフラグシップモデルの大画面版「Galaxy S20+ 5G」や上位版の「Galaxy S20 Ultra 5G」はミリ波とSub-6の両対応なのに対し、ややサイズの小さな「Galaxy S20 5G」はSub-6のみ。米国では、ミリ波対応を必須にしているVerizon向けに、特別仕様の「Galaxy S20 5G UW」を発売している。5G端末では新参者になるAppleだが、この点では競合との差を一気に詰めたといえる。

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リーズナブルなiPhone 12、12 miniに対し、5Gの魅力を引き出したProシリーズ

 5G対応のスマートフォンとしては、価格もかなり“頑張った”ように見える。最安となるiPhone 12 miniは64GB版が7万4800円(税別、以下同)で、ミドルレンジ上位のAndroid端末と同程度か、やや高いレベルに抑えられている。7万4800円は、1年前に「iPhone 11」が発売されたときと同価格。iPhone 12は11よりも1万1000円高い8万5800円だが、その下に「mini」という新カテゴリーを作ることで値上げ感は払しょくした。

iPhone 12 iPhone 12の下にiPhone 12 miniを置くことで、最低価格はiPhone 11と同じになった

 ミドルレンジ上位のAndroidと比較したが、iPhone 12シリーズに搭載されるプロセッサは共通の「A14 Bionic」で、処理能力は競合(恐らくQualcommのSnapdragon 865を指しているとみられる)より50%高いとのこと。5nmのプロセスルールで製造された最新のプロセッサで、AIの処理を担うニューラルエンジンも16コアになるなど、大幅な強化が図られている。ディスプレイも、4機種共通で有機ELを採用する。iPhone 12 miniはサイズこそ小さいが、れっきとしたハイエンドモデルなのだ。このスペックの5G対応端末としては、コストパフォーマンスが抜群に高い。

iPhone 12 iPhone 12 miniはミドルレンジ上位の端末に近い価格だが、スペックはハイエンドモデルと肩を並べる

 クック氏は、イベントで「iPhone 11は最も(販売台数的に)ポピュラーなスマートフォンになった」と語っていたが、これは価格戦略が市場のニーズにはまった側面も大きい。iPhone X以降のiPhoneは高価格化していたが、Appleは2018年に液晶を搭載し、カメラもシングルカメラに抑えつつ価格を下げた「iPhone XR」を導入。2019年には、このiPhone XRの後継機を“標準モデル”に格上げしつつ、「iPhone XS」や「iPhone XS Max」の後継機を“プロモデル”に位置付け直した経緯がある。

 日本でもこの戦略が当たり、iPhone 11はヒットモデルになった。4月に発売された第2世代の「iPhone SE」が販売で健闘しているため、若干印象は薄くなってしまったが、3月までは、販売ランキングでも各キャリアのモデルがベスト10の過半数を占めていた。iPhone 12シリーズではやや価格の上がったiPhone 12と、iPhone 11の価格を維持したiPhone 12 miniに分かれてしまったため、売れ行きは分散することになりそうだが、フルモデルチェンジが図られ、ディスプレイのクオリティーが大きく上がっているだけに、再びヒットする可能性は高い。

iPhone 12 シリーズ内での位置付けを変えることで、ヒットモデルになったiPhone 11

 価格で攻めたiPhone 12、iPhone 12 miniだが、“5Gならでは”を味わえるのは、“プロ仕様”をうたうiPhone 12 ProやiPhone 12 Pro Maxだ。特に2機種は撮影機能が大幅に強化された。静止画は、Appleが開発した独自フォーマットの「Apple ProRAW」での撮影が可能。動画は、Dolby Visionに対応した60fpsの4K HDRでの撮影を行える。スペシャルイベントでも、プロが撮影機材として使えることが度々アピールされていた。

iPhone 12 5Gのスペックをフルに生かすのは、撮影機能が大幅に強化されたiPhone 12 ProやiPhone 12 Pro Maxの役割。プロ仕様の立ち位置がより明確になった

 単に撮影するだけでなく、撮影から編集、配信までを一貫して行えるのが、iPhone 12 ProやiPhone 12 Pro Maxの魅力だ。いわば、通信機能付きの撮影機材といったところだが、いずれの新機能も、データサイズの増大に直結するため、高速通信を売りにする5Gが生きてくる。5Gのスペックをどう生かしていくのかは、端末メーカーに突き付けられた課題だが、Appleは映像制作が一気通貫で行えるプロ仕様のiPhoneで応えたといえる。

iPhone 12
iPhone 12
iPhone 12 高画質や写真や動画を撮影できるだけでなく、編集や共有までを一貫して行える、新世代のモバイル撮影機器として活躍できる。それを支えるのが5Gだ

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5Gのエリア拡大と歩調が合ったiPhone 12シリーズ、普及の起爆剤になるか

 iPhone 12シリーズがヒットすれば、スタートダッシュでつまずいていた日本の5Gが、一気に加速しそうだ。「晩秋から来年にかけて5G祭が始まる」(ソフトバンク 代表取締役社長兼CEO 宮内謙氏)と、キャリア側もiPhoneの5Gには期待を寄せていた。3社とも、エリアはまだスポット的で、日常的に5Gに接続できる状況からは程遠いものの、端末とエリアは鶏が先か卵が先かの関係にある。iPhoneの魅力でこのジレンマを打破できれば、キャリアにとってエリアを拡大する意義も大きくなる。

 iPhone 12シリーズに歩調を合わせるように、キャリア側も5Gのエリアを冬から2021年にかけて拡大する構えだ。KDDIやソフトバンクは、4Gの周波数の一部を5Gに転用する計画で、2021年3月には1万局、2022年3月には5万局に5Gの基地局を広げていく方針。周波数転用には慎重な姿勢を示していたドコモも、5G用に、衛星との干渉調整の影響が少ない4.5GHz帯を保有しているため、エリアの拡大は加速していく。2021年3月には全政令指定都市を含む500都市で展開、同年6月には1万局、2022年3月には2万局まで基地局を拡大する。

iPhone 12 キャリアもエリア拡大を加速させていく。写真はKDDIが9月に開催した発表会でのもの

 購入当初は、圧倒的に「4G」の文字を見ることの方が多いはずだが、使っているうちに、徐々に「5G」のアイコンを目にする機会が増えるはずだ。日本市場だけの事情に合わせたわけではないが、4Gからの周波数転用も決まり、エリア拡大のめどが立った中での投入は、いいタイミングだったといえる。5G普及の起爆剤として、各社とも、販売には例年以上に力が入りそうだ。

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