米ツイッターを2022年10月下旬に買収したイーロン・マスク氏が12月20日夜、後任者が見つかり次第、同社の最高経営責任者(CEO)を辞任すると明らかにした。当初からCEO職に就くのは短期的としていたため大きな驚きはなかったが、思いは複雑だ。というのも11月中旬、どうにかして同氏に会えないかと急に思い立ち、断続的ではあるが2週間ほど、本社前で張り込みをしていたからだ。
マスク氏がCEO職を辞すれば、本社への出勤頻度も格段に減るに違いない。今後は、張り込みをする意味がなくなると思うとさみしいと感じるのと同時に、「あの時に強行しておいてよかった」と心底思う。今回は、その張り込み時に目撃したことと、そこから導き出せるツイッターの未来について取り上げる。
「今ならイーロン・マスクに会えるかもしれない!」
11月中旬にツイッター本社へ行こうと決めたのは、こんな単純な理由からだった。複数社の経営をこなすマスク氏にとって、当時の最優先事項は440億ドルもの大金をはたいて買収したツイッターの立て直し。19年にテスラの低価格セダン「モデル3」の生産立ち上げで倒産寸前の憂き目に遭ったときも、まず取った行動は工場に寝泊まりしながらの問題解決だった。
マスク氏にとって現場はすべてだ。ツイッターの立て直しでも本社に入り浸るだろうと予想した。ちなみに既存メディアからの取材を嫌うマスク氏だけあって、テスラにはもはや広報窓口がなく、スペースXも取材には答えないことで知られている。
また「水曜日」という曜日もカギを握るのではないかと考えていた。以前、曜日によってどの会社の経営に集中するかを決めていたという話を聞いたことがあったからだ。10月下旬の買収時、マスク氏が洗面台(シンク)を手に抱えてツイッター本社に初出社した話は有名だが、これが水曜日だった。11月のリストラ着手でカギになる行動を取るのも、水曜日ではないかと予想した。
考え始めたら居ても立っても居られなくなった。すぐに飛行機のチケットと格安ホテルを予約し、11月7日、ニューヨークからサンフランシスコに飛んだ。
日本の記者にとって夜討ち朝駆けの張り込みはそれほど珍しい行為ではない(とはいえ最近は実行するのが難しくなってきたと聞く)。筆者も日本で鉄鋼や自動車業界を担当していたとき、何か大きな出来事が起きるたびに会社幹部の自宅前で張り込みをしたものだ。取材を受ける側もこの状況に慣れている。
だが良い思い出はほとんどない。張り込みが必要な日に限ってなぜか、猛暑だったり冷たい雨や雪が降っていたりするのだ。大抵は高級住宅街なので周囲にコンビニやカフェといったトイレを借りられそうな場所もなく、1人なので持ち場を離れることもできない。暑さ寒さとトイレを我慢しながら、立ったままひたすら待つのがつらかった。
ところが、サンフランシスコ市内の現場を目にした途端、思わずガッツポーズが出た。
「こんな幸せな場所があっていいの?」
張り込みにうってつけのツイッター本社
ツイッター本社は、市内の目抜き通りとして知られるマーケットストリート沿いにある。角地にそびえ立つL字型ビルと、その内側に建つ長方形ビルの2棟構成。2つのビルの間には、机や椅子、ファイアプレースが置かれた公共の広場があり、L字型ビルの1階にはスーパーマーケットが入っている。
マーケットストリート沿いに建つツイッター本社ビル。右手に少しだけ見えるのがもう1つの細長いビルだ。サンフランシスコ発のテック企業の成長で、この辺りの治安は改善したが、新型コロナウイルスの流行後に再び悪化したという。マーケットの隣のミッションストリートに行くとホームレスの人々があふれていた
イーロン・マスク氏が洗面台を持ち込んだメインエントランスは、この広場に面した長方形ビルの1階にある。
2022年10月26日、マスク氏は洗面台を抱えてツイッター本社に現れた(写真=Twitter account of Elon Musk/@elonmusk/AFP/アフロ)
筆者がなぜ「幸せな場所」と感動したかというと、L字型ビルのスーパーマーケット店内にフードコートがあったからだ。窓際のイートイン・スペースに座ると、広場を挟んでちょうど向かい側にあるガラス張りのエントランスを見渡せる。マスク氏が来社するのを見張るには格好の場所だった。
フードコートの椅子に座ると見える景色。正面がメインエントランスだ
2棟をつなぐ「空中の橋」は、社員の通路になっている
広場は近隣ワーカーの憩いの場所となっている
寒さをしのげて、おなかがすいたらすぐに食べ物にありつけるこのフードコートが、筆者の目には神々しく映った。この日は到着翌日の火曜日。玄関がよく見えるスツールに座って午前中は張り込みをしたが、午後は別の取材があったため早めに切り上げ、翌日に備えた。
そうして迎えた「決戦の水曜日」。午前9時過ぎにパンとコーヒーを手に意気揚々と現場に向かい、お気に入りのスツールに着席。パソコンを広げて仕事モードに入ろうとしたちょうどそのとき、1人の男性が広場に現れた。行ったり来たりしながら、腕時計を気にしている。
「もしかしてイーロンのボディーガード?」
急速に胸が高鳴る。やはり水曜日に何か大きなことをするために出社するのかもしれない。本人が現れたら手渡そうと考えて持参した8月15日付日経ビジネスのイーロン・マスク特集掲載号を握りしめ、ボディーガードと思われる男性には気づかれないようにじっと息を潜めた。
その直後、エントランスの内側の左手、階段口と思われる場所から数人がわらわらと現れた。
「ハッ!」
からの記事と詳細 ( 「マスク氏に会いたい!」 ツイッター本社前、張り込み中の衝撃事件 - 日経ビジネスオンライン )
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