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Sunday, September 10, 2023

「警察に言われて着けるはずがない」取調室でもマスク着用拒否…“マスク拒否おじさん”の逮捕中に起こっていたこと《ピーチ機緊急着陸事件》(2023年9月9日)|BIGLOBEニュース - BIGLOBEニュース

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〈 「お前はもう逮捕や」マスク着用拒否で飛行機が緊急着陸…“マスク拒否おじさん”が《ピーチ機緊急着陸事件》で警察に捕まった瞬間 〉から続く

 2020年9月、釧路から関西空港に向かうピーチ・アビエーションの機内でマスクの着用を拒否し、飛行機を強制降機させられた「マスク拒否おじさん」こと奥野淳也氏。奥野氏は2021年1月19日に威力業務妨害などの疑いで大阪府警に逮捕され、1月22日に同罪で起訴された。そして2022年12月、大阪地裁で「懲役2年執行猶予4年」の判決を受け、現在これを全面不服とし大阪高裁に控訴している。

 そんな奥野氏が、世間を賑わせた「ピーチ機緊急着陸事件」について綴った著書『 マスク狂想曲 2020‐2022年日本 魔女狩りの記録 』(徳間書店)を9月1日に上梓した。ここでは、同書より一部を抜粋し、奥野氏の逮捕中に起こっていた出来事を紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)



奥野淳也氏(写真=徳間書店提供)

◆◆◆


留置房では一睡もできず、食事もほとんど取れない状態で取り調べが始まる

 車は1時間ほど走り、長い橋にさしかかった。フロントガラスから見えるのは、夜の海、大きな橋、どうやら見覚えがある。4ヶ月前に来たところだ。空港連絡橋をわたって、車はさらに先の関西空港警察署に着いた。署の建物に入ると警察官総出で出迎え。もう午後9時過ぎのことである。それから取調室に通された。

 逮捕初日は、「弁録」と呼ばれる短い手続きだけだった。弁護士を頼めるとの告知を受けたので、私は東京の知っている弁護士の名前を言い、電話してくださいと伝えた。その後、留置房に移された。既に消灯時間が過ぎていて、一面暗い。一番手前の房に入るように言われ、そして鍵をかけられた。

「起床────!」看守の大きな声が響き渡った。もう朝である。旅先でもどこでも寝られる私も、この時ばかりは一睡もできなかった。朝食はコッペパンひとつとプラスチックのコップに注がれた酸っぱい紅茶。昨夜はおにぎりだけで空腹だったが、慣れない環境で胃がきりきりしてほとんど食べられなかった。

 この日は1日中、取調べだった。1990年代の空港開港時に建てられた警察署は、まだ新しい部類で、刑事ドラマに出てくるような煙草くさい部屋ではなく、モダンな作りだった。朝9時過ぎ、留置房から出され、取調室に連れられた。取調べを行うのは、昨日自宅アパートに来た捜査一課の警察官である。狭い取調室で警察官2人と向かい合うように座らされた。被疑者の私は、腰縄を椅子に括り付けられ、その縄についた錠で二重に椅子に固定されている。ひとりが尋問し、もうひとりは後ろに控え何も話さずひたすらこちらの様子を観察するというスタイルだ。

「まず、はじめに聞くけどな、マスクはしないのか?」「しません」。私はきっぱりと言った。「なんでや?」「いや、するはずないでしょう。私がマスク拒否おじさんと巷で呼ばれているのは知っているでしょう。警察に言われて着けるはずないじゃないですか」

 名前、生年月日、出生地、父母の名前など、まずは身上関係から取調べが始まった。そして小学校、中学校、高校と成育歴の聴取に進んでいった。どんな病気をしたか、学校での成績はどうだったか、友達はいたか、犯罪の背景を調べたいのだろう。しかし、こちらはそもそも無罪主張である。こんなのに答えても無意味だし、実につまらない。


「これは、くさいなあ」と弁護士が言ったワケ

 昼食の1時間をはさんで、午後もずっと取調べは続いた。昼下がり、だんだん眠たくなってきた。途中で私は休憩を求めた。「昨日寝ていないので、もう眠気で答えられないです。コーヒーでも飲めないですか?」。警察官はいらつきを隠さず机をたたいた。スチール机は音がよく響く。「昔やったらな、コーヒーどころか水ぶっかけられてるぞ。今の時代は優しくなったけどな、なめとったこと言うとったらな、お前な」

 その後も、取調べは続いた。朦朧として質疑がかみ合わなくなった。「この調子やったら進まへんからな、5分だけ休憩やるわ」。その間に、同じ捜査一課の別の警察官が部屋に入ってきて、押収品を返すための還付請書の手続きをしたいと言ってきた。結局、休憩はとれなかった。取調べが再開された。「客観的なとこから行こな」警察官が矢継ぎ早に質問を浴びせてくる。はいともいいえとも、このような所でいい加減なことは言えない。「弁護士さんが来たぞ」。そこで取調べは一時中断になり、私は接見室に移った。午後4時くらいだった。やっと解放された。

 アクリル板の真ん中に、会話する部分だけ小さな穴がいくつか開いている。私は接見室に弁護士が入ってきたのを見て、立ち上がって一礼した。私が連絡するよう頼んだ東京の弁護士が派遣してくれた人で、大阪で刑事事件を専門に手掛けている弁護士のようである。「逮捕状にはどういうことが書いてありましたか?」。私は覚えている限りで文面を述べた。「これは、くさいなあ」弁護士は言った。「相手側の主張だけなので大げさに言っている可能性が十分ある」。私はようやく味方ができたと思った。「先生、相手方は全治2週間の捻挫の診断書もとってきているようです」「全治2週間というのが怪しいなぁ。捻挫なんていくらでも書けますから」。

 その後、身の上や今の生活のことなどを話した。「まずは勾留を争いましょう。明日、検察庁に行くと思うのでそこがひとつの山場です。今からメモしてください」。私は警察支給のボールペンをとりだしメモをとろうとした。自傷防止用にペン先がほとんど出ないように細工が施されている。「すみません、ペンが出にくくてメモが遅くなって……」「これはひどいなあ。ボールペンも書きにくいでしょう。私は今すぐにでもあなたをここから出してあげたい」


まるでディストピア小説のような取り調べ

 逮捕3日目。朝、大阪地検に送検された。「今日は外に行く」と聞かされていたので、持ち込みの白いYシャツに着替えた。関空警察署の前には、朝から多くの報道陣が集まっていた。私が署の建物から外に出ると、一斉にシャッターが切られた。まっすぐカメラのほうを見て、意識して堂々と胸を張って歩いた。私は、何も悪いことはしていない。そして車に乗り込み、警察署を出発した。車が門を出るとき、運転席の前方からフラッシュが光った。私は前を見つめた。

「こんなにマスコミが来るのも珍しい」車中で護送の警察官が言っていた。取調べは大阪府警本部の捜査一課の警察官が行うが、それ以外の護送や留置は所轄の警察官が担当することになる。関空警察署では、主に外国人事件が多く、メディアを騒がすような事件はほとんどないようである。しかも、新型コロナで海外発着便も途絶え、関西空港が閑散としていると、関空警察署も捕まえる人がいなくて暇であるらしい。ちょうどコロナ第3波で緊急事態宣言が出されている頃だった。

 車は1時間ほど走り、大阪地検の庁舎に到着した。検事が呼ぶまで、駐車場にて待機である。駐車場の入り口にはテレビ局のクルーが1局きていた。車で待機中ずっとこちらにビデオカメラを向けている。「マスコミにずっと撮られてたら、警察官もあくびひとつできなくて大変でしょう」私は横の席の護送員に言った。

 取調べの時間が来て、個室に連れていかれた。入ると目の前には、社長が座るような大きな木製の机・椅子と、向かい合って被疑者用のパイプ椅子がある。検察権力と被疑者という圧倒的な力関係を示そうとしているのだろうか。私は腰縄と錠で椅子にくくりつけられ、部屋の片隅には見張りの警察官がいる。机の上には大きなディスプレーが置かれ、画面はこちらを向いていた。急に画面がついて、検事の顔が現れた。

 まるでジョージ・オーウェルの『一九八四年』に出てくるビッグブラザーのテレスクリーンのようだ。「新型コロナ感染拡大に伴い、取調べは遠隔で行います」検事が話した。40代くらいの中年太りの男性検事は、画面の中でもマスクをしている。

「検事さんはどこにいるんですか?」私は画面に向かって尋ねた。「それは言えませんが、この建物の別の部屋にいます」。テレワークではなく出勤しているのであれば、対面で直接向き合えばいいのに、ノーマスクの被疑者への特別対応なのだろう。逮捕事実の読み上げがあり、間違いないかと検事は聞く。「現時点では何もお話しすることはありません」「現時点ではお話ししないということであれば、いつかお話しするということですか」「いつかお話しするかどうかもお話ししません」「これ以上お話ししないのであればもう無理ですね。では、取調べを終わります」。

 その後、作成された調書に署名・指印を求めるという手順だ。遠隔操作だと署名・指印はどうするのだろうと思っていたら、紙をもった検察事務官が部屋に入ってきた。意外とアナログなのである。ものの10分ほどで検事取調べは終わった。

 通常であれば、その後検察が勾留請求をして、被疑者は裁判所に連れていかれる。しかし、この日はそのまま関空警察署に帰るという。何があったのか異例だと、車中で護送の警察官もつぶやいていた。

(奥野 淳也/Webオリジナル(外部転載))

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