大阪大学大学院人間科学研究科/大阪大学感染症総合教育研究拠点の三浦麻子教授らの研究グループは、2023年2月から10月にかけてのパネル調査データをもとに、日本人のマスク着用率の推移とそれに対する社会的規範の影響を分析し、以下の点を明らかにしました。
- マスク着用率は、政府による着用ルールや行動制限全体の緩和後も急減しなかった(図1)。
- マスク着用の動機は、「政府が推奨している」という命令的規範の遵守というより「私がしたいから」という個人の判断によるものだった。
- 「周囲が着用している」という記述的規範はマスク着用率を高める方向に作用していたが、同調圧力というほどは強くなかった。
研究グループが日本在住者を対象として2022年10月から実施しているパネル調査データから、マスク着用が個人の判断(2023年3月)となり、さらには新型コロナが5類に引き下げられる(2023年5月)という「アフターコロナ」を決定づける時期を含むデータを取り出して分析することで、社会状況の変化が私たちの行動に及ぼす効果を検証することが可能になりました。
2024年4月16日(火)に「Japanese Psychological Research」(オンライン)に掲載されました。
図1. 個人のマスク着用率(縦軸は人数、横軸は%)
三浦教授らの研究グループ(共同研究者:村山綾 立命館大学総合心理学部准教授(研究当時は近畿大学国際学部准教授)・北村英哉 東洋大学社会学部教授)は、政治経済などの社会状況の変化とそれにともなう人の心の変化を探るために、2022年10月以来、2000名の日本在住者を対象にしたWeb調査を1ヶ月に1回実施してきました。そして、この研究では、この調査に含まれる質問項目のうち、回答者自身のマスク着用率を問う項目(あなたは、現在、外出時にマスクを着用していますか)に注目しました。
そして、マスク着用に「政府が推奨している」という命令的規範が及ぼす影響を知るために、システム正当化傾向との関連を検討しました。もし命令的規範が着用を促していたなら、マスク着用を政府が推奨していた当時は、システムを正当化する傾向が強いほどマスクを着用しようとすると考えられます。しかし、そうした傾向は認められませんでした。つまり、コロナ禍におけるマスク着用は、少なくともその終期においては、命令に従おうとする心理によって説明できるものではなかったということです。
また、マスク着用に「周囲が着用している」という記述的規範が及ぼす影響を知るために、社会全体のマスク着用率を推定させる項目(現在の、日本の社会全体のマスク着用率はどの程度だと思いますか)への回答との関連も分析しました。その結果、記述的規範から個人の行動への影響は、統計的に意味のあるものではありましたが、逆の(回答者自身のマスク着用率が社会全体のマスク着用率の推定に及ぼす)影響と比較すると相対的には小さいものでした。これは、いわゆる「同調圧力」は声高に言われたほどのものではなかったことを示しています。
私たち人間の行動、そしてそれを司っている心理は、置かれている状況の強い影響を受けています。平時はこうした状況の力が意識されることはあまりありませんが、コロナ・パンデミックのように激烈な状況の変化があると、多くの人が否が応でもそれを自覚させられたことでしょう。本研究成果は、長期にわたるパネル調査データを用いることで、パンデミック終期の日本における社会的規範とマスク着用との複雑な関係を明らかにし、状況の力の一端を示すものであると言えます。
本研究成果は、2024年4月16日(火)に「Japanese Psychological Research」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Behind the Mask: Analyzing the Dual Influence of Social Norms on Pandemic Behavior in Japan”
著者名:Asako Miura, Aya Murayama, and Hideya Kitamura
DOI:https://doi.org/10.1111/jpr.12520
なお、本研究の一部は,科学研究費助成事業(JP19H01750)と日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクトの一環として行われました。
からの記事と詳細 ( \私がつけたいからつける!/ アフターコロナでも残る日本人の「マスク」の理由 - 大阪大学 ResOU )
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