マスクにアロマシールを貼るとメンタルにも好影響
香りのするシール(アロマシール)をマスクに貼ると、息切れなどの症状が軽くなり、メンタルヘルスにも良い影響が生じることが、無作為化二重盲検比較試験の結果として報告された。星薬科大学の湧井宣行氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に2023年11月16日掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、マスクを着用する機会が増加した。マスク着用時に8割以上の人が息苦しさや暑苦しさなどのストレスを感じていると報告されている。
COVID-19の感染抑止にマスクが有効であったことが示されたことから、パンデミック終息後にも他の呼吸器感染症のリスク低減のために、引き続きマスク着用が推奨される傾向が続くと考えられ、着用時のストレス対策の重要性が増している。
対策の一つとして香り(アロマ)が役立つ可能性があり、夜勤看護師を対象に行われた研究では、アロマスプレーをマスクに吹きかけると眠気が抑制されて注意力が高まると報告されている。
しかし、スプレーで噴射したアロマ成分は短時間で蒸発してしまい、効果が長続きしないという欠点がある。これに対してアロマシールは香りが長時間持続するという特徴があり、マスク貼付用のシールも流通している。
ただし、マスク用アロマシールの効果をエビデンスレベルの高い研究手法で検証した結果は報告されていない。以上を背景として湧井氏らは、エビデンスレベルが最も高い研究手法とされる、プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を行った。
研究参加者は、18歳以上の大学生62人(平均年齢21.1±1.6歳、女性88.5%)。アロマオイルを習慣的に用いている学生、アロマオイルが好きでない、またはアレルギーのある学生、慢性疾患のある学生などは除外されている。
無作為に31人ずつの2群に分け、1群には柑橘系の香りのするアロマシールを支給し、他の1群には無臭のシールを支給して、2週間にわたって使用してもらった。
香りが強すぎる場合はシールをハサミで切り、任意の大きさに調節して良いこととした。なお、柑橘系の香りは世界で最も人気がある香りとされている。
主要評価項目は、抑うつや不安・ストレスの程度を把握する「DASS-21」という指標のスコアとした。そのほかに、マスク着用時の不快感を5点満点で回答してもらうアンケートを用いた評価、および、世界保健機関(WHO)によるメンタルヘルスの評価指標である「WHO-5」のスコアを、副次的評価項目とした。
なお、DASS-21は63点満点でスコアが高いほど抑うつや不安・ストレスが強いことを表し、WHO-5は25点満点でスコアが高いほどメンタルヘルスが良好と判定する。本研究参加者のベースラインのDASS-21は8.33±7.26、WHO-5は15.39±4.01で、不快感のアンケートのスコアは2.43±1.01だった。
ベースラインにおいて、年齢、性別の分布、上記3種類の評価指標のスコア、および、外出頻度、香りの好みに有意差はなかった。2週間の介入期間中のシール利用日数は、アロマ群は5.6±1.2/週、プラセボ群は5.4±1.3/週であり、プラセボ群の1人が介入期間中に脱落し、最終的にアロマ群31人、プラセボ群30人が解析対象となった。
結果について、まず主要評価項目であるDASS-21の変化に着目すると、アロマ群ではベースラインから2週後に-3.68(95%信頼区間-5.42~-1.93)と有意に低下(改善)していたのに対して、プラセボ群は-1.06(同-2.48~0.71)であり有意な変化が観察されなかった。
最小二乗平均の差(LSMD)は-2.61(同-5.10~-0.12)で群間に有意差が確認された(P=0.04)。また、DASS-21の下位尺度の中で、抑うつの指標についてもLSMDが-1.05(同-2.06~-0.04)であり、有意差が認められた(P=0.04)。
不快感のアンケートのスコアも、アロマ群は2週後に-0.62(同-0.87~-0.37)と有意に低下していたのに対して、プラセボ群では-0.09(同-0.34~0.16)であり有意な変化は観察されなかった。LSMDは-0.53(同-0.88~-0.18)で有意差が確認された(P=0.004)。
WHO-5については、下位尺度の「落ち着いたリラックスした気分で過ごした」というスコアの変化に有意差があり、アロマ群でより大きく上昇していた(P=0.02)。
有害事象として、アロマ群で頭痛、プラセボ群で胸痛がそれぞれ1件報告されたが、いずれもシール貼付との関連性は確認されず、2日以内に改善していた。
著者らは、本研究の対象が若年者のみであり、かつ、男性よりも嗅覚が優れているとされる女性が大半を占めていたという限界点を挙げた上で、「マスクにアロマシールを貼ることで呼吸の快適性が向上し、メンタルヘルス上のメリットも得られることが実証された」と述べている。
また、感染症抑止という目的だけでなく、リラックス効果を得るという目的で、例えば飛行機の長時間フライト時にアロマシールを貼付したマスクを着用するという使い方もあるのではないかとの提案を付け加えている。(HealthDay News 2023年12月25日)
Abstract/Full Text
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0294357
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構成/DIME編集部
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