「最初のプロダクト名は『テレパシー』だ」――。米起業家のイーロン・マスク氏は1月、X(旧ツイッター)上でそう宣言した。
マスク氏率いる新興企業「ニューラリンク」がヒトの脳に超小型デバイスを埋め込んでコンピューターと接続する治験を開始した。被験者は考えるだけでマウスを画面上で動かせるようになったという。
「ニューラリンクの技術は圧倒的」
実のところ、思考によるマウス操作自体は全く新しい技術ではない。米国の神経科学者は1991年、ラットの脳に電極をうまく埋め込めば、ラットが考えるだけで小さなロボットアームを動かせると報告。2006年にはヒトでも実現している。
それでも「ニューラリンクの技術は圧倒的。誰もまねできない次元だ」と、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)研究に詳しいハコスコ(静岡県熱海市)取締役CTOの藤井直敬氏は驚きを隠さない。起業家として数々の業界常識を覆してきたマスク氏は、脳科学と技術を組み合わせた「ブレインテック」の歴史も変えそうだ。
ニューラリンクが先を走るのは、多機能化と小型化を両立させたデバイスを用いる点だ。ペットボトルキャップほどの大きさにバッテリーや無線通信などの機能が集約されており、埋め込んでも日常の生活を邪魔しない。脳にデバイスやチップなどを埋め込み、脳の動きを補完する「脳インプラント」と呼ばれる手法ではこれまで、ワイヤで大掛かりな装置につながれるのが一般的だった。
データの量や質の面でも優れている。ニューラリンクが用いる電極は1024個と、従来型デバイスの数倍。脳の神経細胞のすぐそばからデータを取得するため読み取れる情報も多い。例えば競合する米シンクロンのデバイスは血管内に置かれ、脳活動を直接記録することはできない。
「複雑なロボットのリアルタイム操作や口を動かさない発話はほぼ確実にできるようになる」と藤井氏は期待を語る。四肢まひの患者などが不自由なくスマホやコンピューターを操作できる時代が近づいている。
安全面や持続性に課題
しかしマスク氏がもくろむ「ヒトと機械の共生」の夢はまだ遠い。ニューラリンクは当面、障害者の機能回復が中心的な使い道になると目され、健常者にも広く普及させるためにはまだ多くの壁がある。
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