イーロン・マスクがOpenAIの共同創業者のサム・アルトマンとグレッグ・ブロックマンのふたりを提訴し、利益を追求することなくオープンに人工知能(AI)を開発するという創業当初の3人の合意にOpenAIが「明らかに違反」していると非難したのは2月29日(米国時間)のことだ。この主張に反論すべくOpenAI側は、マスク、アルトマン、ブロックマン、その他の人々との間で交わされたメールを、一部を黒塗りするかたちで3月4日(米国時間)の遅い時間に公開した。
これらのメールからは、マスクが比較的早い段階からOpenAIの利益重視の姿勢に前向きであったことが読み取れる。このため、OpenAIが当初のミッションから外れていったというマスク自身の主張が覆される可能性がある。
あるメッセージでマスクは、より多くのリソースを提供するためにOpenAIを自身の電気自動車(EV)メーカーであるテスラに統合することを提案していた。このアイデアは、もともと外部関係者(名前は明かされていない)がメールでマスクに提案したもので、マスクはそのメールを転送している。
メールから見えたマスクの本音
公開された一連のメールは、OpenAIの開発の成果はすべての人に無償で提供すべき、という点をマスクが絶対に守るべき原則とは考えていなかったことも示唆している。
OpenAIのチーフサイエンティストのイルヤ・サツキヴァーはあるメッセージで、高度に進んだAIテクノロジーのオープンソースでの提供は、テクノロジーが進むにつれ大きなリスクをはらみかねないと警告していた。これに対してマスクは 「そうだね」と返している。このことは、OpenAIのスタート時からイノベーションの無償提供についての合意が形成されていた、という訴状におけるマスクの主張と矛盾しているように思える。
法律面での論争はさておき、OpenAIが公開したメールからは、テック起業家らのパワフルな一団が幹部となってある組織を設立し、その組織が巨大な力をもつに至った──という経緯が見えてくる。驚くべきことに、OpenAIは自らのミッションの焦点を人間より賢いマシンとされる汎用人工知能(AGI)をつくることに置いているにもかかわらず、共同創業者たちはAGIにわくわくするよりも、グーグルなどの資金力が豊かな巨大企業の力が増すことを懸念して議論することのほうに多くの時間を費やしているのだ。
OpenAIを世に出すやり方について論じたメッセージで、マスクは次のように書いている。「資金提供10憶ドル(当時のレートで約1,200億円)からスタートする、と言うべきだろう。本当だ。誰も提供しない部分は、ぼくが引き受ける」
マスクはグーグルやフェイスブック(現在のメタ・プラットフォームズ)の莫大なリソースを引き合いに出し、立ち上げに際して資金は1億ドル(当時のレートで約120億円)と発表するという案を一蹴したのだ。
「AlphaGo」がもたらした衝撃
マスクがアルトマンやブロックマンらと共にOpenAIを立ち上げた時期は、2015年にさかのぼる。当時もグーグルを中心に“AI熱”が高まっていた。グーグルのAIプログラム「AlphaGo」は非常に難度の高いボードゲームである囲碁について大いに学び、非営利組織であるOpenAIが設立される約1カ月前に人間の王者(このときは欧州の王者)を初めて打ち負かしていた。
この快挙は、囲碁は複雑すぎてコンピューターがすぐにマスターできるものではないと考えていた多くのAI専門家に衝撃を与えた。また、AIが一見して不可能に思える多くのタスクをマスターする可能性を示したのである。
マスクの訴状は、すでに報じられていたこの時期のOpenAIの背景の詳細を改めて裏付けるものだ。その内容には、マスクがAIの潜在的な危険性を初めて認識したのは2012年のデミス・ハサビス(AlphaGoを開発し、14年にグーグルに買収されたDeepMindの共同創業者兼最高経営責任者)との会合の際だったという事実も含まれている。
訴状では、AIの将来的なリスクをめぐってマスクとラリー・ペイジ(グーグルの共同創業者)の意見が大きく食い違っていたことも確認された。このことが、友人だったふたりが仲違いするきっかけになったようだ。マスクは結局、18年にOpenAIと“決別”したが、「ChatGPT」の大成功以来このプロジェクトへの不快感をさらに深めているようだ。
関係性が壊れてしまった理由
OpenAIがマスクとのメールのやり取りを公開して以来、メッセージから削除された名前やその他の詳細についての憶測が飛び交っている。AIに頼って統計的にあり得そうなテキストで空白を埋めようとする者もいた。
マスクはOpenAIプロジェクトに関するあるメールに、次のように書いている。「このプロジェクトには年間数十億の資金がすぐに必要だ。それを出さないなら忘れてしまうべきだ」
こうもマスクは記している。「残念ながら、人類の未来は●●●●(削除された人物名)にかかっている」
おそらく、グーグルの共同創業者であるペイジについて言及しているのだろう。
メールのほかの削除部分について、AIソフトウェアもTwitter(現在のX)の一部のコメントと同じ推測をしている。AIではグーグルが大きく優位に立っているというハサビスの主張をマスクが転送した、というのだ。
削除された人物名が誰であったにせよ、OpenAIの共同創業者たちのメールに示されていた関係性は、後に壊れてしまった。マスクは今回の訴訟において、OpenAIの主要な支援者であるマイクロソフトへのテクノロジーのライセンス供与を停止するようOpenAIに求めている。公開されたメールと同時に投稿されたブログでOpenAIのほかの共同創業者たちは、事態の悪化を嘆いている。
「わたしたちが心から尊敬していた人とこのようなことになってしまい、悲しく思います。その人は、より高いところを目指すようにとわたしたちを鼓舞し、その後わたしたちはきっと失敗するだろうと言い、競合する企業を立ち上げ、そしてわたしたちが彼なしでOpenAIのミッションに向けて意味ある前進を始めたときに、わたしたちを訴えたのです」
(WIRED US/Edit by Daisuke Takimoto)
※『WIRED』によるOpenAIの関連記事はこちら。人工知能(AI)の関連記事はこちら。
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