電気自動車(EV)市場をけん引してきた米 テスラが混乱している。人員解雇が続き、士気は低下。株価が大きく下げ、売り上げも落ち込んだ。同社のかじ取りをするリーダーが混乱しているからだと言う投資家もいる。
テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏(52)は同社以外にも5つの会社を所有。米宇宙開発企業 スペースXとかつてツイッターとして知られていたソーシャルメディアのX、トンネル掘削ベンチャーの ボーリング、脳インプラント開発会社 ニューラリンク、そして人工知能(AI)ベンチャーのxAIだ。
マスク氏はいわば「イーロン株式会社」という変幻自在の企業帝国の下、世界中で13万人以上の従業員を指揮している。マスク氏が自ら築いた企業世界の中心で明るく目立つ一方で、コンサルタントや調整役、役員、家族らから成るあまり表に出ない人々が同氏を取り囲んでいる。
マスク氏はこのインナーサークルに頼って、企業帝国全体の緊急タスクを処理しているが、サークル内の人々がどのように報酬を得ているのかは不明なことが多い。
マスク氏のビジネスが好調だったころ、たいていの投資家は一人の人間が幾つもの会社を同時に経営することの複雑さに目をつぶっていた。しかし今、「 マスク帝国」の至る所でトラブルが起きている。
飛ぶ鳥を落とす勢いだったテスラの株価は今年大きく下落し、最も売り込まれている銘柄の一つとなっている。
スペースXのスターリンク事業は、その端末の 闇市場が拡大。スーダンやイエメンのような米国の敵対国にインターネットサービスを提供しているとして、 監視対象となっている。マスク氏はまた、買収したツイッターの従業員解雇に関連する訴訟も抱えている。
ブルームバーグ・ビリオネア 指数によると、マスク氏の個人資産は今年に入り5月28日までに約270億ドル(約4兆2400億円)減少。
テスラの取締役会が6年前にマスク氏に用意した560億ドル規模の報酬パッケージを無効とするデラウェア州の 衡平法裁判所が示した判断を覆すことができなければ、同氏はさらに資産を失うことになる。
テスラ株を約60万株保有し、最近マスク氏の報酬に反対する書簡を書いたアマルガメーテッド銀行の最高持続可能性責任者アイバン・フリシュバーグ氏はマスク氏について、「利害が相反するパートタイムCEOが非常に綱渡り的な行動をしている」とみている。
「テスラの場合、ここ1年の業績と経営陣の主要メンバー離脱が全て、計画通りに進んでいないことと投資家が増大するリスクに直面していることを示唆している」というのがフリシュバーグ氏の認識だ。
今のマスク氏にとって、正念場は 6月13日に開催されるテスラの年次株主総会だ。2018年に策定された巨額報酬を投資家が再び承認するかどうかが焦点となっている。
この米史上最大の報酬パッケージは、デラウェア州の裁判所が株主にとって最善の利益にはならないと今年1月に 判断している。
マスク氏とこの記事で名前が出てくる他の人々は、ブルームバーグからの問い合わせに応じなかった。
一人二役
マスク氏は誰もが敬遠する業界で大きな賭けにでることで、地球上で最も裕福な人物の一人となった。同氏はリスクに向かって走り、工場の床で本当に多くの時間を睡眠に費やし、畏敬と反感が同居する経営スタイルを築いたと主張している。
しかしマスク氏には、6つの会社を同時に経営するもう一つの秘策がある。インナーサークルの人材を「一人二役」で起用することだ。
テスラとスペースXは2015年以降、材料エンジニアリング担当バイスプレジデント(VP)、チャールズ・キューマン氏を共有。テスラの「オートパイロット」ソフトウエアチームが助けを必要とした際にはスペースXのソフトウエア担当VP(当時)のジンナ・ホセイン氏が飛び入り参加し、ダブルワークで一時的にチームを運営した。
デラウェア州 衡平法裁判所のキャサリン・マコーミック判事が記した意見書によれば、マスク氏は2020年、テスラ経営陣に対し、大量の自社製蓄電池「パワーパック」と共に「最も頭の切れるマイクログリッド設計者」をスペースXに派遣するよう指示したという。
テスラにおける最高幹部の一人であるオミード・アフシャール氏はテキサス州で「ギガファクトリー」プロジェクトのリーダーを務め、スペースXでも重要な役割を担っている。
また、ニューラリンクのオペレーション・特別プロジェクト担当ディレクター、シボン・ジリス氏は、テスラでAIプロジェクトに携わっていた。彼女はマスク氏の子どもたちの母親でもある。
資金管理者であるジャレッド・バーチャル氏は、スペースX投資の資金調達担当として複数の役割を担っているにもかかわらず、法人登記書類にはニューラリンクの執行役員として記載されている。同氏はまたXのビジネス取引について助言を行い、マスク氏の非営利財団を運営している。
「マスク氏は定期的にテスラの経営資源を使って、自分が所有する他の会社のプロジェクトに取り組んでいる」と、マコーミック判事はマスク氏の報酬パッケージを却下した判断の中で説明した。
デラウェア州裁判所の判断によると、スペースXの取締役で元テスラ幹部のアントニオ・グラシアス氏は、個人的に、また同氏の会社のために、数十億ドルを手にしている。
テスラの報酬委員会を率いるベンチャーキャピタリストのアイラ・エーレンプレイス氏はテスラとスペースXへの直接投資で数億ドルを稼いだだけでなく、マスク氏の企業帝国とのつながりを利用して自分の会社向けに資金を調達している。
ツイッター買収
自らの企業帝国全体に経営資源を配置するマスク氏の傾向は、恐らく440億ドルでツイッターを買収した際、最も顕著に表れた。
同氏は2022年10月、サンフランシスコにあるツイッター本社にグラシアス氏を連れてきた。同氏は全社的な人員削減の実施を支援。トンネル掘削のボーリングで社長を務めるスティーブ・デイビス氏はツイッターの経費削減に集中するあまり、家族をオフィスに呼んだ。
マスク氏の弁護士を長年務めるアレックス・スピロ氏は法務・ポリシーチームにアドバイスし、バーチャル氏もそこにいて、ツイッターのビジネスと経営陣の移行を監督していた。
マスクはツイッター経営陣を解雇し、数千人の雇用を減らした。時にはマスク氏が経営する別の企業で働く従業員がツイッターでの仕事をこなした。テスラやスペースXのエンジニアが大挙してやって来て、ツイッターのコードを見直し、エンジニアリングチームの管理を手伝った。
人員削減の計画を支援するため起用されたのはスペースXの人事部だ。ツイッターでのこうした仕事について、マスク氏は 「自発的」に取り組まれたと説明。これらの人々がツイッターで行った仕事で報酬を得たかどうかは不明だ。
2023年後半、Xのリンダ・ヤッカリーノCEOは同社の事業は独立したビジネスではなく、むしろ 「企業から成る星座の一部」だと述べた。
テスラの代理委任状によると、Xはテスラから約20万ドルの広告収入を得ている。この広告はテスラ車の販売を促進するためのものだが、大口広告主のつなぎ留めに苦しんでいるXを支えることにもなっている。
マスク氏の目算は、自身が手がける多くの事業を一つの大きな宇宙の一部として運営することで、各部門の信頼性を向上させることができるというものだ。
最近、xAIへの出資を考えている一部投資家の間で回覧されたスライド資料には、Xとテスラは戦略的パートナーだと記載されており、「 マスコノミー(Muskonomy)」へのアクセスを大きなセールスポイントとして強調しようしているようだ。
マスク氏が動かす小さめの会社がテスラの経営資源にアクセスすることで利益を得られることは明白だが、テスラの投資家にとってはそのメリットはあまり明確ではなくなりつつある。
「マスク氏がツイッター買収に費やした時間の長さは、間違いなくテスラの懸念材料だった」とデラウェア州裁判所のマコーミック判事は結論付けた。その懸念は高まるばかりだ。
原題: Tesla’s Slump Exposes Elon Musk’s Distractions Across His Empire (抜粋)
からの記事と詳細 ( 「マスク帝国」にほころび-テスラ投資家、6社束ねる経営手法を懸念 - ブルームバーグ )
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