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Wednesday, November 9, 2022

ソニーとホンダが共有する「進化の理解」 EVに向かうソニー・ホンダの狙い - Impress Watch

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10月13日のソニー・ホンダモビリティ発足会見。代表取締役社長兼COOの川西泉氏(左)と代表取締役会長兼CEOの水野泰秀氏(右)

ソニーとホンダによる高付加価値型EV販売を目指す合弁企業「ソニー・ホンダモビリティ」が設立された。

10月13日には2社による設立発表会見が開かれ、2026年に同社が北米での製品発売を目指すことなどが発表されている。

一方で、ソニー・ホンダモビリティがどのような自動車を作ることを目指すのか、どんな付加価値があるのかといったことは、あまり明確には語られなかった。現状、製品の詳細を明らかにできない、という事情もあると思われる。

とはいうものの、もう少し「内実」に迫ることはできないものか。

そこで今回、ソニー・ホンダモビリティの代表取締役社長兼COOであり、ソニー側でプラットフォームを担当するソニーモビリティ・代表取締役社長 兼 CEOである川西泉氏にロングインタビューを行なった。「どんな車か」はまだ語られていないが、「なにを目指して」ソニーが車を作るのか、EV開発に至るソニーの動きなどについては、より詳しく聞くことができた。

ソニー・ホンダモビリティ 代表取締役社長兼COOの川西泉氏

EVは「当面ソニー・ホンダに専念」、ソニーがホンダから学んでいることとは

一つ気になることがある。

ソニー・ホンダモビリティは、ソニーとホンダでEVを作る計画だ。

だが、それは本当に「ソニー」単独のEVや、他の「モビリティ製品」を作らないこととイコールなのだろうか? 川西氏は「そこはこれまでクリアーにはお話しませんでしたが」と言い添えた上で、次のように語り始めた。

川西氏(以下敬称略):今の段階で申し上げられるのは、ホンダと共にモビリティ製品を作る、というところだけが確定です。

ここまで作った「VISION-S」(ソニー独自開発による試作EV)はどうするんだという話は当然あるんですけど、まあ、「VISION-S」を商品化する、と言っていたわけではないので。いつか実車もまた作ることになるとは思いますが、一旦は置いておきます。ソニーホンダのものと、両方をやる力はありません。

ソニーのEV試作モデル「VISION-S 01」
SUV型の「VISION-S 02」

もちろん、サービス周りの技術やセンサー技術はありますから、それを社会に活用するという活動は残りますし、これからもやっていくべきだと思いますが、コンシューマ商品としてはまた別です。

自分たちがこれまでプロトタイプを作ってきて、そこから量産に向けたハードルを乗り越えるため協業パートナーとしてホンダさんがいた、ということだと思っているので、別のものとしての商品化は切り離して考えてください。

なるほど。すなわち、自動車としてのコンシューマ商品としては、当面ソニー・ホンダのEVに集中する、ということなのだろう。

そこでシンプルな疑問が浮かぶ。ソニーはなぜホンダを必要としたのか、という点だ。EVの製造拠点など、生産面での理由はすぐに思い浮かぶ。では、知見の面でホンダからはなにが得られたのだろうか?

川西:相当なものが得られましたし、まだまだわからないことはたくさんあります。

一番私たちに足りていないのは「法規」の知識です。単純に我々には知識が足りない。差は歴然としています。

関連法規は各国違い、自動車を作る人たちにとってはある意味常識なのでしょうが、我々にはわからない部分が多々あります。そういうことは、本当に量産してみないとわからないものです。

また、法規に従うのは当然なんですが、その環境の中でモビリティをどう進化させていくのかということは、必ずしも法規の遵守とは一致しない部分があります。その一致しないケースでどうするかが、私たちにとって一つの使命でもあると思うんです。「法規を破る」んじゃなく、法規を見直したり、新たな法規を提起したりすることが、モビリティの進化につながります。法規は毎年進化しているのですが、であるならば、モビリティもそれに合わせて進化しなければいけない。

車を見て我々からの新たな気づきとして、なにか取り入れられるものはないのか、とは常に考えます。

これまでの人たちだったら「いや、そんなことはやらないよ」というような話で、それが今は法規上認められていないようなことでも、ではどうしたら実現できるのかを考えていかないといけない。

重要なのは、そういうマインドがあるかどうか。そこで安全性を担保しながらも、同じ価値観を目指していくことができるかが重要です。

「それがホンダにはあった、ということですか?」

筆者がそう問うと、川西氏はこう答えている。

川西:業界が違いますから、違いは当然ありますよ。しかし、ホンダは歴史的な経緯もあって、なんとなく近いのかな、フィーリングはお互いにあったんじゃないか、と感じています。

「ソフトウエア・ディファインド」だから高級機になる必然

では、その上でソニー・ホンダが作る自動車はどのようなものになるのだろうか。

川西:ホンダの技術を加味しながら、ITの技術を取り入れないと作る意味がありません。そこでのソニー側の比率は、ある部分では高いです。もちろんホンダ側には車体制御などで元々持っている部分があるので、そこは取り入れていくことになります。一方でADAS(先進運転支援システム)などの先端の部分は、我々に強みがある。そこで役割・棲み分けが出てきています。車両コントロールやボディコントロール、いわゆるCAN(自動車内ネットワーク)の通信を使い、既存のスタンダートにぶら下がるものは流用しやすいです。その上でADASやインフォテインメントなど、コネクテッドな部分は主要なキーコンポーネントを進化の度合いにあわせて取り入れていきます。

発表会ではごくシンプルなものだが、両社が作るEVのアーキテクチャ概念図も示された。搭載するプロセッサーの総処理能力なども示されている。もちろん本当にラフなもので、そこからEVの性能や内容を推し量るのは難しい。

そこで川西氏は「あの場では言わなかったが、重要な要素が一つある」と話す。

川西:実は「メモリーサイズ」をいうかどうかでかなり悩んだんです。言いませんでしたが。

よく「ソフトウエア・ディファインド(ソフトによって定義される)」な車、というのですが、それはまあその通りです。

ただし、それを作るにはそれに耐えられるハードになっているかが重要です。要は、メモリーもストレージも、CPUのパフォーマンスも高くなければできないんです。

ということは、「安い車にはできない」ということです。

川西氏は過去、長くPlayStationの開発に関わってきた。筆者が最初に取材したのも、PlayStationの開発に関係する取材がきっかけだった。その経験を踏まえて、さらにこう説明する。

川西:この辺の議論は、PlayStationの時代にさんざんやりました。

しかし自動車というのは、「決められたことをいかに安く実現するか」、すなわち削ぎ落とすことに対してすごく訓練されているな、と感じます。そこがうまくて、それはそれで素晴らしいことだとは思います。

僕たちがやってきたのは、将来を見通して設計段階で予測し、耐えられるだけの設計にすることでした。「わからないことに対してのマージンをとっておく」んです。5年後にクリエイターがどんなゲームを作ってくるかはわからないですからね。

そういう「ソフトが成長していくことに対応する」ことを想定しておく考え方が重要で、その考え方をまず認識することです。

それが付加価値なのかはともかく、「将来的にこういうサービスをずっと続けるんだ」ということ、サブスクリプションであれなんであれ、「将来的な自動車自体の成長を自分たちのビジネスの糧とするんだ」という意思がなければ、こういう決断はできません。

ソニーはホンダとの提携を決める前に、多数の自動車関連企業と話し合いを持った、と言われている。その交渉がどうだったのか、他社のどこがどういう感触だったのかを、川西氏は明かしてはくれなかった。

だが、次のようには語っている。

川西:少なくとも、三部さん(本田技研工業・三部敏宏社長)からは、感じています。「最先端を目指したい」という期待を感じましたし、そこを目指すのであれば……ということで上を目指す形で合致できた、というところです。

こうした流れを見ると、ソニー・ホンダのEVが「高付加価値型でハイエンド」になるのは必然に思える。

一方で、EVシフトの中では、軽自動車のように低価格なものも求められている部分があり、それをどうするのか……という視点もあるだろう。

川西:やはり、いきなり全ラインナップに(同じような高度な)技術を使う、というのは足枷になるかと思います。

今はどんな車にも運転支援用にカメラがつくようになりましたが、昔はありませんでしたよね。でも時代が変わってつくようになった。そんな変化なのかもしれません。

家電においてもハイエンドからコストダウンして普及型に、という形でしたが、そういう家電の中に流れているものを自動車でも実現できるか、がポイントになるでしょう。

自動運転はじっくり「車も人も進化する」形か

EVによってもたらされる変化を考えたとき、重要な点は2つある。

一つは、自動車を動かすエネルギーが電気になることによる、大きな産業構造の変化。

そしてもう一つが、同時に期待される「自動運転」の世界だ。EV=自動運転車ではないが、自動車の作り方が変わる以上、運転から人を解放することが期待される部分でもある。

ソニー・ホンダのEVでは、高度な運転支援である「レベル2+」と、限定された地域での自動運転である「レベル3」の実現を目指している。もちろんここは、高度な新技術と「ソフトウエア・ディファインド」な自動車が求められる部分である。

自動運転の要素がどうなるのか?

それを聞いた時に、川西氏は面白い見方を示した。

川西:「レベル3」を実現と公表しました、実際、自動運転は全ての環境下においては対応できるようになっていません。課題は多くて、ある環境下における自動運転から進め、長期の活動になると思います。

もちろん我々も、ホンダ「レジェンド」のレベル3は体験しましたし、素晴らしいと思います。ただ、レベル3は「特定条件下」、限られたレギュレーションの中でのものです。

一般市街地では運転支援として「レベル2+」の技術を使うことになりますが、これは特定条件下での自動運転とは違うものです。むしろ多くの方はレベル2+の条件下を体験することになるシチュエーションが多いでしょう。

すなわち、レベル2とレベル3+以上では、進化のベクトルとして同じ「自動運転」であっても、並列で別に存在するように思うんです。

今は自動車を完全に信頼してよそ見し続けられるか、というとちょっと難しいですよね。現状は人間がハンドルに手を添えているくらいの方が安心します。

完全に自動車を信頼するには、人間の側も体を慣らしていくというか、自動車との間で信頼関係を築く必要があります。ある意味で、乗っている側の気持ち、マインドセットも成長していかないと、自動運転は受け入れられないのかもしれません。

自動運転の進化には、人間の成長と車の成長が同時に、時間と共になだらかに進化することが望まれているような気がします。

例えば、ある日に突然アップデートして「もう手放しで運転して結構です」と言われても、なかなかできないんじゃないかと。安全性に非連続な変化は求めることについては、賛同をえにくいのかもな……と思います。

もしかすると、違うかもしれませんよ。家電でもいきなりものすごく機能アップすることがありますし、それが求められるのかもしれませんが。

aiboからソニー・ホンダにつながる「インフラ」とはなにか

もう一つ気になることがある。

ソニーのEV計画は、川西氏の率いる「AIロボティクス事業部」でスタートした。この事業部が最初に手掛けたのは、2018年に復活した「aibo」である。

そして次に使ったのは「VISION-S」であり、次にドローン「Airpeak」だ。

それぞれ「AIが関わって動くもの」という共通項はあるが、中身はぜんぜん別物のように思えるし、関連性も薄いように思える。しかし、背後で動作しているのは同じソニーモビリティのクラウドプラットフォームである。

このあたり、すべて関連して最初から計画されていたのだろうか?

そう尋ねると、川西氏の答えは「イエス」だった。

川西:いままで話したことはないんですけれど、最初から考えていました。

というのは、3つに分けて考えるとわかりやすいんです。「利用者管理」「機体管理」「運行管理」ということなんですが。

aiboはそれぞれの利用者を管理し、aibo自身を管理し、さらに自宅内のマップなどを管理しますよね。

Airpeakは業務向けのリースモデルなので、リース相手と機体、そしてフライトの管理が必要になります。放送機器に近くて、aiboとはだいぶ違います。

EVも、運転する人の管理、EV自体の動作状況の管理、それに車内のエンタメなどに別れます。ユーザーに紐づくデータは運転するユーザーに紐づく一方、EV自体の走行距離などは自動車のデータとして記録されます。それぞれを活かせば、「運転者と走行距離に応じたドライビング」を提案することも可能でしょう。もちろん、どこかに問題が起きそうな予兆があれば、サービスに連絡して点検を依頼できるでしょう。どこかが壊れてしまうほどにソフトで補正して走らせる、ということはないと思うんですが(笑)。

要は、そういうデータベース構造を最初から考え、整理しながら進めてきました。

アカウント管理や課金管理のようなベーシックなものは、すでに世の中にあるじゃないですか。

でもモビリティまで拡張した場合、モビリティに付随した色々な情報が集まってくる可能性がある。

ゲームにしても単に課金機能があるわけではなくて、ユーザーがどんな人と遊んだのかであるとか、どんな風に遊んだのかのデータを管理する必要があります。だとするなら、モビリティでもモビリティに特徴的なデータが集まってきてしまうことになります。だからモビリティについてはソニーモビリティでやりましょう……ということです。

その上で自動車では、実社会とのつながりがさらに出てくる。現実をミラーリングした「デジタルツイン」型のメタバースとの関係だ。この点をビジネスに活かすことは会見でも語られた。まだ具体的な話をできる段階にはないようだが、川西氏は方向性を次のように語る。

川西:具体的な姿を決めてあるわけではないです。しかし、モビリティを「移動する体験・行為」と考えた場合、体験軸で考えた時の移動は、仮想的な空間や新しいサービスコンテンツの土壌になりうるのではないか……と漠然とか考えているところです。デジタルツイン、リアルとバーチャルの関係を考えるいい機会になるのでは、とは考えています。

現状は発表したばかりですから、自分たちがサービス提供者の方々に、ある程度これからお声がけしていくところです。そこでは色々な方々とオープンにやっていければ、と思うのですが。

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